暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十五話 千客万来・桜契社(下)
[3/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
と堂賀殿に宜しく、と」
 ――うん? 浦辺・・・浦辺・・・。
作者とは全く異なり人の名を覚えることは得意であったが、豊久はその名を即座に思い出すことはできなかった。
 ――腹黒閣下の名前を出した以上、考えられるとしたら内外情勢調査会か?それとも情報課の御仁か?まぁいいや、それは堂賀閣下に頼んで照会すればいい。
「えぇ、閣下にも。宜しく伝えておきます。しかし何故、中佐殿が?」
豊久の問いかけに笹嶋はわずかに苦笑いを浮かべていった。
「統帥部の上がどうにも私を陸への窓口にしたいようでね。
ある意味では便利な役だがどうも北領から面倒を押し付けられている気がするよ」
――ふむ、だから耳が利く陸の将校への伝手が欲しい、と。
「同病にかかっていましてね、相憐れむといきましょう。喜んで伝えてさせていただきますよ。
ただ御返答はあちらの意思次第です。――まぁあちらにとっても良いお話でしょうから個人的にはいいお返事が来ると思いますが」
 ――陸軍の情報機関は国内では優秀だが、海外における調査能力は在外公館を中心とした貧弱な物でしかない。水軍の情報機関である内外情勢調査会との連携は北領に残っているであろう僅かな北領特高憲兵隊の残留部隊頼りだった現状を打破しうるものだ。そして統帥部をはじめとした水軍主流の衆民将校達にとっても陸軍が握っている五将家体制の中で守原寄りの中立である執政と?がっている堂賀准将と協力することで陸軍・官界・水軍内の守原派に関する情報の統合も出来るかもしれない。
「――豊久、もうすぐその手の事は私と父上が引き継ぐのだからあまり抱え込まないでくれよ?」
豊守が目ざとく豊久にくぎを刺した。
「解っております、父上。笹嶋さんのお話はむしろお互いの手助けになりうるものですから」
 下手を打てば足元を掬われる。それは出世競争だけではなく――というよりも戦時において将校人事に密接に関わってくるだけでたかが出世競争などといえないのであるが――国防指針の奪い合いになっている。現状では利害の一致している“耳”はどれほどあっても困るものではない。
「また謀か、中佐?」
 窪岡少将が此方を面白そうに見て言った。
「むしろ謀から身を守る術です、閣下。この程度は自衛の内ですよ」
 謀略渦まく軍監本部の戦務課課長は、
「貴様の家の事謀略だか肝計だかしらんが。あまり少佐を巻き込むなよ?
何しろ、駒州が若頭領殿の義弟にして近衛少将閣下のお気に入りだからな」
 皇族少将も楽しそうに便乗して陸軍中佐に波状攻撃を仕掛ける。
「そうだ、許さんぞ。俺が直々に一本釣りをした我が近衛衆兵隊の期待の新鋭だからな」

「やれ、御無体な。自分は清く正しく〈皇国〉軍人として忠勤を尽くしていますのに。」
 自称一介
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ