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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十五話 千客万来・桜契社(下)
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、よほどの思想家は別として、ほぼすべての将家の軍人たちにとって辣腕の皇族将軍など傍迷惑な存在でしかない。臣下の筆頭として自身の主家が〈皇国〉の戦を仕切るのが理想的な展開であって皇家はあくまで神輿に過ぎない
――陛下たちは今までと変わらず、あくまで〈皇国〉の君主としてただ君臨なさっていればよいのだ。実権など持つべきでない、彼らが古からの権威を纏えている所以は実権を持たないからこその無謬性に拠るものなのだから。

 酔い覚ましの水を啜りながらとりとめのない事を考えていると磊落さを感じさせる笑い声が耳に入りこんできた。
――成程、親王殿下は御自ら引き抜いた近衛少佐をお気に召したようだ。

新城直衛の政治的価値がさらに上がっていくことを感じ取り、半ば条件反射でかつての情報将校は対応策を模索していた。
――新城の部隊に監視役を入れておくべきだな。勿論、奴の眼鏡に適う度胸と能力が必要だ。あの調子だと親王殿下があいつに白紙委任状を渡しかねん。司令直々の許可が降りたらアイツ、将校相手でも容赦なく首を切るだろう。それで尻を蹴っ飛ばされて追い出されるような間抜けな真似は気に食わん。
 脳内の人名録を捲っている豊久へ実仁は矛先を向けた。
「――新城少佐。貴様と共に勇戦した大隊長殿を紹介してくれ」

「はい、閣下。此方は馬堂豊久砲兵中佐です」
 新城の紹介を受けた豊久は恭しく敬礼を奉げる。
「こうして直接会うのは初めてだな、中佐。北領で最後まで戦い抜いた武勲は聞いている」
「はい、閣下。ですが全ては北領で閣下に受けた御恩と大隊総員の奮戦があってこそであります」
歯が浮くような言葉を発しながらも内心では皮肉な思いが渦巻く。
 ――その勇士達の死体を野晒しにして衆民たちとともに捨て去った奴がぬけぬけと良く云ったものだ。
まぁ、将校、それも勝ちを逃した将校なんてそんなモンか。

「駒州の者らしい物言いだな。」
そう、少将閣下は薄く笑みを浮かべて言った
まぁ、主家が下屋敷の塀をとっぱらうような家風だからね。
「随分と爺も貴様を気に入っていたようだったが、
保胤に新城少佐、それに貴様、駒城は三代先までは安泰だな。
爺が羨ましくなる」
 そう言って曾ての侍従武官であった篤胤と言葉を交わし始めた。
 ――三代先、か。〈皇国〉が残れば、だな、それは言わない約束だけれどさ。
 親王の世辞自体は素直に受け止められるにせよ、現実的な思考が指し示す未来は憂鬱しか齎さないのであるから救いようがない。現状では向こうが音を上げるまでの悪戦しか勝筋が見えないのだから当然である。
「馬堂君」
と今度は笹嶋が豊久に声をかけてきた。
 ――おっと今度は笹嶋さん か。
「何でしょうか?」
「浦辺大尉が君
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