8部分:第一幕その八
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第一幕その八
「嬉しいよ。ロザリンデはそれを覚えてくれていたんだ」
「覚えていたのじゃないわ」
ロザリンデは口ではそれを否定する。
「たまたまよ」
「そうなんだ」
「そうよ。けれどそのたまたまを受け取ってくれるわよね」
「勿論」
アルフレートはにこりと笑って答えてきた。
「じゃあ飲もう。飲めば目も澄んで美しい目はますます磨かれていく」
「わかってますね」
アデーレはそれを聞いてアルフレートににこやかな笑みを送った。
「わかるさ。恋も夢で欺くもの。シェークスピアみたいにね」
オペラ歌手らしい言葉であった。昔からシェークスピアの作品はオペラにもなっている。彼も当然ながらそれを知っているのである。
「永遠の誠も泡のように消えてしまう。心の喜びも忘れ去った時に慰めを与えてくれるのは何か」
「何でしょうか」
「それがこれなんだよ。ワインだ」
アルフレートの声はうっとりとしていた。今は美酒を見ていた。
「しかし思い出してくれるのもまたワインだ。だから」
「飲むのね」
「勿論」
今度は奥方の言葉に答えた。
「だから貴女も」
「それは」
「口では嫌って言っても」
アデーレはそんな彼女を見て悪戯っぽく笑っていた。その中で呟く。
「心は」
「さあ飲もう」
アルフレートは誘う。
「二人で。貴女が裏切ってもいい。僕はそんなことは構わない」
「どういうこと?」
「僕には貴女だけなんだ」
お決まりの殺し文句である。だがこれを真に受ける女も男も多い。結局人は誰かにこういう言葉を言ってもらいたいのである。
「それはわかるよね」
「それでも私は」
拒みながらもそれを変えるタイミングを計っている。彼女も楽しんでいた。
「主人が」
「今あの人はいないのでしょう?なら」
そろそろといった感じであった。
「僕と」
「貴方と」
「これで決まりね」
アデーレはそれを見て確信した。彼女もこうしたことにはかなり詳しいようだ。
「じゃあ」
「若し」
しかしここにまた来客であった。今度は制服の口髭を生やした厳めしい男であった。
「アイゼンシュタイン伯爵はおられますかな」
「貴方は?」
奥方はアルフレートから顔を離して彼に顔を向けた。
「どなたですか?」
「どなたもこなたもありません」
彼は言う。
「伯爵をお迎えに来ました」
「では」
「はい、フランクと申します」
彼はまずは名乗った。
「刑務所長です。お話は御存知ですね」
「ええ、まあ」
勿論である。それがもとで騒いでいるのだから。
「では伯爵」
「おや」
何を間違ったのか所長はアルフレートに声をかけてきた。貴族なのでブレイを働くわけにはいかなかったからだ。アルフレートが貴族かどうかはともかくとし
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