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こうもり
5部分:第一幕その五
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あるのは伯爵に似ているが彼のそれはユーモアもある感じであった。
「お客様です」
「今は誰にも会いたくはない」
「もうお招きしました」
「何と、もうかね」
 アデーレの動きの素早さに呆れてしまった。
「まだ何も言っていないのに」
「まあまあ」
「仕方ないな。それで誰だね」
「私だよ」
 その茶色の髪の男が言ってきた。緑の目を愛嬌よく動かしてきた。
「やあ、伯爵」
「あら、博士」
 奥方は彼を見て声をあげた。彼はファルケ博士、有名な文学者であり法学者である。伯爵の古くからの遊び仲間でもある。この街では名士の一人だ。
「ようこそ」
「いやいや、奥方も」
 彼は恭しく頭を下げてきた。
「お元気そうで」
「有り難うございます」
「何の用なんだね」
 伯爵は彼に尋ねてきた。
「大晦日に」
「話は聞いたよ」
 博士は声に同情を含ませて伯爵に言ってきた。
「気の毒にか」
「君も聞いていたのか」
「風の噂でね」
 彼は答える。
「聞いたよ」
「噂というものは伝わるのが早いな」
 伯爵はそれを聞いて顔を顰めさせる。もう広まっているのかと思いさらに不機嫌になった。
「噂にはどんな壁も効果がないからね」 
 博士はここでは文学者として言ってきた。
「だから僕も知ったのさ」
「知らなくてもいいのに」
「まあまあ」
 笑って憮然とする伯爵を宥める。
「奥方は八日間もこの男の顔を見なくて済むのですよね」
「ええ、まあ」
 奥方は儀礼的にそれに応える。
「それはそうですが」
「何よりです。厄介払いができて」
「全くね」 
 伯爵はそれを聞いて憮然として述べた。
「愉快なことだよ」
「しかしだね」
 博士はそんな彼に対してさらに言う。
「普通はないぞ。日が伸びるなんて」
「彼のおかげでね」
 またブリントを指差して言った。
「そんなことになったのさ。いい迷惑だよ」
「言っておきますが」
「もういい」
 これ以上ブリントには喋らせようとはしなかった。
「聞く気にもなれない。それでだ」
「うん」
 博士は笑ってそれに応える。
「その八日間の拘留が明日からなのだが」
「では今日はまだ時間があるのだね」
「うん」
 まずはその問いにも頷く。
「そうだが」
「なら話は早い」
「どうしたんだね?」
 博士が急に態度を変えてきたのに彼も気付いた。すると奥方がここで言ってきた。
「あの、博士」
「はい、奥様」
「うちの人を少し慰めてあげて下さい。あんまりなことですから」
「私がですか」
「古くからのお友達である貴方ならと思うのですが」
「確かに」
 それを受けて思わせぶりに笑ってきた。

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