第十一話「堕ちる少女」
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笑みを深めた女の背後から、ヌッと影が現れた。
「――お暇の時間だもの」
暗い光を灯した目を持つその影は女の身長を優に越す。山のように逆U字型の形をしたソレは口と思われる部位を開くと、女を飲み込んだ。
「また逢いましょう、お二人さん」
影の口の中へ消えていく女を追うように駆け出した俺は拳を振るう。が、一足早く影はその口を閉ざし、拳は虚しく影を貫いただけだった。
ソレはもう用はないとばかりに地面へと消えていく。残されたのは俺とエスト、変わらず俯いて黙したままのクレアだけとなった。
「ちっ、逃がしたか……」
婆さんに報告する内容が増えたな。
ガリガリと乱雑に頭をかき、大きく息をついた。
「はぁ……。ほら、帰るぞクレア」
「――ねえ、リシャルト」
俯いたままポツリと言葉を溢す。顔は前髪で隠れており、声には抑揚がなく、色も感情も籠っていなかった。
いつもなら、怒りや喜びといった何かしらの感情が見え隠れしているのに。
「アタシね、強くなんないといけないのよ……。強くなって姉様に会うの……」
でも、と続けるクレアはその顔を上げた。
「スカーレットがいないの……どこにも、いないの」
その瞳はどこか虚ろで、俺を見据えているはずなのにどこか遠くを見ている気がした。
「――そうだ、スカーレットはアタシが殺したんだった……。でもね、でもね! 新しい力を手に入れたの……!」
既に兆候が見え始めている。狂気が精霊から契約者へ伝播し出しているのだ。
普段のクレアなら絶対にしない狂気の笑みを浮かべる。新しい玩具を手にした子供のように無邪気に。
「ほら、見てよリシャルト! これがあたしの新しい精霊なの!」
「――っ、こんな場所で顕現するつもりか!?」
まずい、ここは学院から離れた場所にある。付近には民家がある上に一般人もいる。そんな場所で精霊を――それも狂気に侵された精霊を顕現したら、周りの被害は尋常ではない。
まずは場所をかえなければ。
「次元の壁を超え、彼方へ通じる道を開かん――〈次元跳躍〉」
圧縮呪文を唱え、俺とクレア、エストの三人を元素精霊界へと跳ばした。座標を設定している暇がなかったため、この間の決闘の場である〈門〉の前にした。咄嗟に設定した場所がここなのは、ここ最近で最も印象のある元素精霊界だからだ。
急に場所が換わったにも関わらず、クレアは嬉々とした表情で哂う。
「見せて上げるわ、これが――あたしの力よ!」
クレアの翳された手から放たれたのは黒い炎。そして、燃え盛る炎の中
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