第十一話「堕ちる少女」
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見た、視てしまった。もうこうなってしまっては外部からの干渉で強制的に隔離することは困難だろう。
「リシャルト、狂精霊は――」
「ああ、知っている……識っているとも。なにせ、遭遇したことがあるからな……」
今では苦い思い出だ。この世界で訪れた最初の転機。再び『最強』を目指した切っ掛けでもある記憶。
小さな女の子が蹲って泣いている姿が脳裏に浮かび、首を振って頭から追いやる。
今はそんなことを考えている場合ではない。クレアをどうにかしなければ……。
わざと足音を立てて近づき、クレアの気を引く。
俺の姿を認めた彼女はバツの悪そうな顔を見せた。
「リシャルト……」
「探したぞ、クレア」
クレアの眼前まで歩み寄った俺はなるべく優しい声音を意識しながら言葉を続けた。
「リンスレットもエリスも心配している。さあ、帰ろう」
そう言って手を差し伸べるが、クレアは俯いて微動だにしなかった。
どうしたものかと思考を巡らせていると、今まで涼しげな笑みを浮かべ傍観していた褐色肌の女が前に出た。
「貴方がリシャルト・ファルファーね」
ジロッと視線だけを向けてその女を見やる。妖艶な薄い笑みを浮かべた女は妙にしなを作りながらこちらに近づいてきた。
「……そういうあんたは?」
「そうね、スラーヴァとでも名乗りましょうか。ただのしがない踊り子よ」
「しがない踊り子ね……。その割には随分と物騒なモノをクレアに渡したようだが?」
「それはこの子が望んだことだわ。私はほんの少し後押ししただけに過ぎないもの」
変わらない微笑みを浮かべる女――スラーヴァの姿に俺は目を細めた。
「御託はいい。単刀直入に聞く。貴様、何者だ」
「あら、そんな怖い顔してたら女の子にモテないわよ。しがない踊り子だもの、そんなに殺気を向けられたら怖くて泣いちゃうわ」
そう口にはするものの、スラーヴァは全く応えた様子もなく、しれっと受けながしている。
その様子に俺はさらに目を細めた。
「ほう……では、そのしがない踊り子が何が目的でクレアに近づいた?」
「私はただ『声』を聞いただけ。渇望の声をね」
「……まあいい。貴様をグレイワースの婆さんの下に連れていく。下手な抵抗はするなよ?」
「こんなか弱い乙女を無理矢理襲うだなんて野蛮ね。がっつく男の子は嫌われるわよ?」
「なら、優しく連行してやろう」
間合いを詰めようと爪先に重心を移動させる。刹那、
「遠慮しておくわ。それにそろそろ――」
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