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失われし記憶、追憶の日々【精霊使いの剣舞編】
第十一話「堕ちる少女」
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しら……。


 ――この力があれば……。


「それがあれば、強くなれるのね……?」


「ええ」


「……わかった。なら――望むわ」


 黒い靄に手を翳すと、すっと手に染み込むかのように靄は消えていった。同時に左手に鋭い痛みが走り、黒く禍々しい精霊刻印が刻まれる。


「狂精霊〈ゲシュペンスト〉――気に入ってもらえたかしら?」


 踊り子が微笑んだ。それは少女のように無邪気で、悪魔のように冷徹な笑みだった。


「そこまでだ」


 どこからともなく、抑揚のない声が降ってくる。その聞き覚えのある声にハッと後ろを振り向いた。


 銀髪の少女を傍らに携えた少年が、静かな眼差しでこちらを見つめていた。





   †                    †                    †





 学院都市はアレイシア学院の敷地内に作られた小規模の町であり、建物のほとんどが石造りで出来ている。エストを横抱きにした俺は建物を高速で飛び移りながら、クレアの気配を辿っていた。


 先程、探索魔術で捜索したところ約二キロ先にクレアの気配を察知した。しかし、その傍には覚えのない気配もあった。氷のように冷たく、闇のように底がない、なんとも嫌な気配だった。


 ――胸騒ぎがするな……。


 無事でいてくれと祈るような気持ちで走ること一分、ようやくクレアの元へ辿りついた。


「――っ、あれは……!」


 クレアの傍らには褐色肌の女が立っており、暗い光を放つ球体を手にしている。まだ距離のあるここからでも、その禍々しい気配を感じられた。


「狂精霊ですね」


 エストがポツリと零す。


「やはりか……」


 狂精霊――憑依型の精霊であり憑依する対象の精霊に狂化属性を強制付与する性質を持つ。格の高い精霊ではないが、憑依された精霊の大半は理性を無くし、破壊の限りを尽くす。それも、自身が消滅するまで。


 見ると女がクレアに狂精霊を勧めているようだった。今のクレアはスカーレットを失ったショックがまだ尾を引いているはず。そんな精神状態で甘い言葉でも貰えば逡巡する間もなく頷いてしまうだろう。


 案の定、力ある曰くつきの精霊を前にして心が揺らいでいるようだった。





 ――そして、ついにクレアが狂精霊を受け入れた。





「あの、馬鹿者が……ッ」


 狂精霊がクレアの手から身体に浸透するかのように憑依していく。


「遅かったか……!」


 あと五秒、あと五秒早く到着していればなんとかなったものの、今まさに狂精霊が完全に憑依したのをこの目で
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