2部分:第一幕その二
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視線を見て応えた。そのうえでまた囁いてきた。
「それじゃあですね」
「うん」
「ここから消えますのでお願いがあります」
「何だい?」
「チップを」
現金にそれを主張してきた。
「ドレスをレンタルできる位の。いいですか?」
「お安い御用だよ」
アルフレートは快くそれに応じてきた。ウィーンは何かと宴の多い街なのでドレスや鬘、そうしたもののレンタル業も盛んであった。そして売れっ子のテナー、テノール歌手である彼にとってはそれをレンタルできるだけのチップを出すことなぞ造作もないことであったのだ。
「それじゃあ」
「有り難うございます」
垢抜けたドイツ語で応える。この街の言葉であった。
「じゃあそういうことで」
「お願いするよ」
「はい。奥様」
アデーレは急に深刻な顔になって奥方に声をかけてきた。
「どうしたの?」
「実は大変な手紙がまた来たのです」
「大変な手紙が」
「はい、叔母が重病らしくて」
「叔母さんが!?」
「そうです。それで今夜見舞いに行って宜しいでしょうか」
「そうなの。けれど」
だがここで奥方は難しい顔をしてきた。
「今日からうちの人が警察の御厄介になるから」
「はあ」
「あの」
アルフレートはそれを聞いてアデーレに囁いてきた。
「伯爵は何をされたの?」
「はい、実はですね」
アデーレに彼に応える。そしてまた耳元で囁いてきた。
「酔って倒れられているところを介抱しようとしたお巡りさんの顔を何発か殴ってうすのろって罵って。それで五日の禁固刑になりまして」
「ああ、それは仕方ないね」
彼はそれを聞いて納得したように頷く。
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