投刃と少女
とあるβテスター、赤面する
[1/9]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「今日もいっぱい戦ったねー。ユノくん、お疲れさま!」
「あ、うん、お疲れさま」
ここ何日かの日課となっている迷宮区での狩りを終え、ダンジョン周辺に広がる鬱蒼とした森を抜けて帰路に就く。
木々が生い茂っているせいで視界が悪いこの森を歩くのも、毎日迷宮区まで通っているうちにすっかり慣れたものだ。
「ねぇねぇユノくん。ベータの時も第1層でこんなに時間かかってたの?」
「んー、そうだなぁ……」
帰り際、シェイリが何気なしに口に出した質問に、僕はすぐに答えることができなかった。
このゲームが始まっておよそ一ヵ月が経った今でも、プレイヤー達は第1層攻略の真っ最中だ。
βテストの時では二ヵ月で第10層まで進んでいたのに対し、これはかなりのローペースであると言えるだろう。
───だけど、無理もないよね……。
βテスト当時はHPがゼロになって死んだとしても、『はじまりの街』にある『黒鉄宮』という宮殿の、『蘇生者の間』と呼ばれる復帰ポイントまで飛ばされるだけで済んだ。
いくら死んでも復帰できるのだから、ボスに挑むのだって『当たって砕ければいい』程度の感覚でしかない。というか通常、MMORPGなんていうのはそんなものだろう。
でも。茅場曰く、僕たちが当たり前のように思っていたそれは、SAOの“本来の仕様”ではなかったらしい。
SAOが“本来の仕様”となった現在、『蘇生者の間』には巨大な碑が設置されており、そこにはSAOにログインしている全プレイヤーの名前が刻まれている。
そしてプレイヤーのHPが全損した際には名前に横線が引かれ、ご丁寧なことに死亡理由まで表示されるという仕組みになっていた。
そもそもにおいて、攻略に意欲を見せているプレイヤー自体、βテストの時に比べて随分と減っている気がした。
本来の仕様───HPがゼロになった瞬間、ナーヴギアに脳を破壊されてしまうという現状では、迂闊にボスに手を出して初見殺しに引っ掛かるということは、イコール現実世界の死でもあるのだから、当然といえば当然かもしれない。
あの時、僕がシェイリに提案した、もう一つの選択肢。危険を冒してまで攻略に行くくらいなら『はじまりの街』にいたほうがマシだ……と考えているプレイヤーも、決して少なくない。
そういったこともあって、本来であれば第5層までは攻略できていたであろう月日が流れても、僕たちは第1層から上に行くことができずにいる。
「みんな怖いんだと思うよ。負けたら死ぬんだから、当たり前ではあるけど……」
「そっかぁ」
もしもβの時のように、HPがゼロになっても復帰できるという仕様だったら。
10000人もの人数がログインしているこの状況なら、遅く見積もっても一ヵ月もあれば、βテストの最終層だった第10層までは行けていたと思う。
当時のプレイ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ