19部分:第三幕その二
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第三幕その二
「そうなのです。それでですね」
「ええ」
「女優になりたいのです。それでですね」
「私に後見人になって欲しいと」
「駄目ですか?」
アデーレが彼に問うてきた。
「それは」
「ふむ。しかしですな」
酔ってかなり頭の回転が無茶苦茶になっているがその中で述べてきた。
「才能は」
「才能ですか」
「はい、女優は才能です」
酔っていてもこれは言えた。そのうえでアデーレを見やる。
「そこのところはどうですか?」
「宜しいですか」
アデーレはそれを受けて話をはじめた。
「村娘の時は短いスカートで子リスの様にはしゃいで若者をまばたきしながら笑い掛けます。田舎娘らしく前掛けの紐をいじくって雀を捕まえて」
「ふむ」
所長はその言葉をじっと聞いていた。それでアデーレを見定めようとしていた。
「若者が後を追ってきたら一旦退けて一緒に草原に座って楽しげに歌いますわ」
「成程」
「そして女王になれば威風堂々華やかな服を着て人々の垣根の間を歩きましょう。そして優雅な微笑で国を治めてみせますわ」
ここではマリア=テレジアのことが念頭にあるのであろうか。言わずとしれたオーストリア中興の祖であり十六人の子供に恵まれた偉大な母でもあった。女帝としても母親としても妻としても偉大な女性であった。
「そしてパリの貴婦人になれば」
「どうされるのですか?」
「侯爵様の奥様になって若者とのアバンチュール寸前で。相手は若い伯爵様」
「ほう、それは」
ありそうなシチュエーションであった。どうやらアデーレはそうしたことも考える才能があるようであった。所長はそれを見抜いたのであった。
「三度目にあわや陥落。ですが突然やって来た夫に涙を流して謝りお客様もそれで涙を」
「ふむ、全ての役を演じられるというわけですな」
「そうです」
自信たっぷりに頷いてきた。
「ですから」
「そうですな」
頷こうとした。しかしここでまたベルが鳴った。
「おや、またお客様か」
「またですか」
ベルを聞いて看守がやって来た。
「新年なのに人が多いですな」
「多いという問題ではないな」
所長は言った。
「何かおかしいな」
「おかしいですか」
「うむ。まあいい」
だが酒のせいで深くは考えられなかった。かなりいい加減である。
「お通ししてくれ」
「わかりました」
そして暫くして看守は戻って来た。見ればいるのは伯爵である。
「ルナール侯爵です」
「あら、旦那様」
アデーレは彼の顔を見て名前を聞いて呟いた。
「あれっ、貴方は」
「貴方も」
伯爵と所長はここでお互いに気付いた。
「どうしてここに」
「いや、それはこちらの台詞です」
所長はこう返した。
「どうしてこちらに」
「といいま
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