第百十八話 瓦その九
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「それでもですな」
「あ奴はとにかく武辺者じゃがな」
「苦手なものがありますか」
「そうじゃ、あ奴は雷が苦手なのじゃ」
家康の思わぬ弱みである。
「あれが鳴ると子供の頃から怯えてのう」
「左様でしたか」
「うむ、今も雷が鳴ると飯に箸をつけぬ様になる」
「左様でありますか」
「人は恐れぬがそれは恐れる」
雷だけはというのだ。
「それがあ奴じゃ。それでじゃが」
「はい、その徳川殿につきましても」
「今度この城に呼び茶を共に飲むか」
それか、というのだ。
「三河まで行くかじゃな」
「徳川家の本拠地の」
「うむ、そこで三河の飯を食うのもよいな」
「三河ですか」
「あそこの飯は面白いとのことじゃ」
「面白い、ですか」
「そうじゃ、面白いらしい」
そうだと話す信長だった。
「三河武士は大層食うらしいしのう」
「確か徳川家の飯は」
羽柴はその話を聞いてこう信長に述べた。
「玄米だの麦飯といいますか」
「そうらしいのう」
「我等は今は白米ですが」
尾張の頃からだ。織田家はそうなのだ。
だがそれに対して徳川家はだというのだ。
「そうしたものでありますか」
「馳走もじゃ」
「随分と質素とのことですが」
「贅沢は馳走を並べるだけではないわ」
「違いますか」
「御主は贅沢といえば馳走を並べみらびやかな服を着ることと考えておるな」
「はい、実は」
そもそも百姓の出の彼にとっては今の十万石を超えるだけの石高をもらえること自体が夢の様な話だ、それでこう言うのだった。
「贅沢というものは」
「そう思うのも当然じゃがな」
「しかし贅沢はですか」
「竹千代には竹千代の贅沢があるのじゃ」
「玄米や麦飯に贅沢がありますか」
「そうじゃ、わしもそれがわかったのは最近じゃがな」
「殿もでありますか」
「うむ、中々わからんかったわ」
そうだったというのだ、信長にしても。
「徳川家も贅沢があるのじゃ」
「徳川家は質素ではないのですか」
「質素じゃが贅沢はある」
信長は笑って羽柴に話す。
「無論民達の間でもじゃ」
「ううむ、わかりませぬが」
「そのうちわかればよい、とにかくじゃ」
「はい、徳川殿をお招きするか」
「わしが三河に行くかじゃ」
「どちらにされるかですか」
「両方でもよいな」
それもまた、と言う。信長は家康との、ひいては織田家と徳川家の関係を考えそしてこう言ったのだった。
「招くのも行くのもな」
「ですか」
「どちらでもな。さて、今もじゃ」
「茶をですな」
「飲むとしよう」
こう言うのだった。
「御主も飲め」
「それがしもですか」
「当然じゃ。後々茶会を開ける者もわしが選ぶが」
そうするというのだ。
「まず爺じゃな」
「織田家でも随
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