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こうもり
15部分:第二幕その六
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第二幕その六

「私は三百一ですが」
「何と」
「私の勝ちなのでしょうか」
「馬鹿な、この時計が」
「私が嘘を言うと思われるのですか?」
「い、いえ」
 美女に言われると弱い。ついついそれを否定してしまう。
「そのようなことは」
「そうですわね。それじゃあ」
「はい。では」
 時計を差し出す。こうして時計は奥方の手に渡った。
(嘘も方便ね)
 奥方は心の中でペロリと舌を出す。
(こういうのは)
(参った)
 それに対して伯爵は困った顔になっていた。
(まさか取られるとは。どうしようか)
 しかし考えている暇はなかった。そこに公爵がやって来たのだ。
「ハンガリーから来られたそうで」
「はい」
 にこりと笑って彼に応える。ここでもハンガリー訛りのドイツ語である。
「左様です」
「それではお願いがあるのですが」
「何でしょうか」
「実は私は音楽も好きでして」
 彼は述べる。
「ハンガリーの曲もまた。それでですね」
「歌を聴かれたいのですか?」
「宜しいですか?」
「勿論です」
 にこりと笑って言葉を返してきた。
「そういうことでしたら」
「それは有り難い」
 公爵はその言葉を聞いて笑みを浮かべる。
「それでしたら」
「はい。それでは」
 彼女は優雅に準備を整えた。それから口を開くのであった。
「故郷の調べは憧れを呼び覚まし私の目に涙を溢れさせる。懐かしき故郷の歌を聴けは心は故郷に戻る」
「ふむ」
 伯爵はそれを聞いて呟いた。
「ドイツ語ですがそもそもはハンガリー語だったのでしょうな」
「おそらくはそうでしょうね」
 公爵がそれに応える。
「それをわざわざドイツ語に変えてくれているのかと」
「有り難いことです」
「我が祖国ハンガリーよ。麗しき故郷は明るき陽光に照らされ森は緑濃く野は笑う」
 ドイツ語で歌い続ける。実は奥方はハンガリーの生まれなのでこの歌は押さない頃から知っているのである。
「故郷の思い出と面影は我が心を満たす。愛しき面影よ、私は何時までもあなたにこの思いを捧げます」
 さらに歌を続ける。
「ハンガリーの血を受けたこの胸は火と燃える。さあ踊ろう明るいチャルダッシュの響き。小麦色の肌と黒い瞳の娘さん達と一緒に」
「ほう」
 公爵はハンガリー娘の描写を聞いて声をあげる。
「ハンガリーの女の子達はそうなのですか」
「まあ人によります」
 伯爵がそれに答える。
「そうした娘もいれば黄金色の髪の娘も」
「左様ですか」
「ええ。けれど美人が多いことは事実です」
 彼は述べる。ハンガリーは元々アジア系のマジャール人が作った国であり肌や目の色が本来は違うのだ。だがかなり混血しているので一概には言えなくなってきているのである。
「火の様なトカイを
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