投刃と少女
とあるβテスター、戦慄する
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心臓の鼓動を何とか抑え込み、鍔迫り合いの状態のまま両脚に力を込めた。
「せー……のっ!」
気合を込めた掛け声と共に全身の力を集中し、垂直飛びの要領で敵の持つ手斧を上へと跳ね上げる。
犬と人間を足して割ったような姿の亜人型モンスター『ルインコボルド・トルーパー』は、武器を持った手を思い切り跳ね上げられ、大きく体勢を崩した。
「シェイリ!スイッチ!」
「はいはーい!」
すかさず飛び退きシェイリの名前を呼ぶと、嬉々とした表情で両手斧を構えながら突進してくるパートナーの姿が見えた。
『スイッチ』というのはSAOのパーティ戦で用いられているテクニックの名称だ。
SAOに存在する全てのソードスキルには、発動前の『溜め』と発動後の『硬直時間』が課せられる。
硬直時間はその名の通り、ソードスキル発動が終わってから次の動作が可能になるまでの間に発生するクールタイムのことだ。
当然ながら、硬直時間中のプレイヤーは身動き一つ取れない。例え目の前に敵の攻撃が迫っていようが、システムによって定められた時間が終わるまでは一切の行動を封じられてしまう。
硬直時間は弱いソードスキルでは短く、強いソードスキルになればなるほど長く設定されている。
つまり大技を使えば使うほど、その分に見合った無防備な時間ができてしまうということだ。
「おかえしだよ!」
その欠点を克服するための方法が、この『スイッチ』だ。
一人がソードスキルを使用して硬直時間を課せられても、すかさず二人目が交代することにより、相手に攻撃する隙を与えずに次々とソードスキルを叩き込むのできる連携攻撃。
最低二人以上での連携が必要なため、ソロのプレイヤーには無縁なテクニックではあるけれど、パーティプレイをするなら必須のテクニックだと言っても過言ではない。
―――というより、スイッチができないプレイヤーはパーティ組もうにも蹴られるのがオチなんだけどね。
SAOがまだ和気藹々とした世界だった頃は、そんな光景もあったなぁ―――なんてことを思いながら、僕と交代で敵へと向かっていったシェイリの戦いっぷりを見守る。
体勢を崩したままの敵に向かって、頭上に振りかぶった両手斧を振り下ろす。更にその勢いを殺さずに、旋回しながら深緑のライトエフェクトを纏った刃を振り回していく。
両手斧 範囲攻撃技《ワールウインド》
まるで旋風のように巨大な斧を振り回す様は、彼女の華奢な見た目からはとても想像のつかない戦い方だ。
その幼い顔にニコニコとした笑みを浮かべながら敵を切り刻んでいく姿は、正直ちょっと……いやかなり怖い。
というかこのデスゲームにおいて、笑顔で敵に向かっていく人なんて未だに一人しか見たことがない……。
「これでっ、終わり〜!」
僕が内心ドン引きしながら見守っている
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