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戦国御伽草子
参ノ巻
守るべきもの

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 ぎしぎしと音を立てて歩いているとことん、と音がして目の前に何か赤いものが落ちてきた。



 あたしの目がおかしくなければそれは上から落ちてきたもので、でもあたしはまだ天地城にいるのであって、あたしの頭上には当然ながら天井がある。目をぱちくりさせながら天井を仰ぎ見ても、特に何ら変わったところはなく、茶色い天井があるだけ。



 とりあえずしゃがんで、あたしはその赤いものを指先でつまんで目の高さまで持ち上げた。



 それは、赤い勾玉だった。



 これ…紅水晶(くれないのはり)?勾玉なんて古いもの、一体今時誰が持っているというのだろう。表面は小さい無数の傷で覆われ、長く使用されていたようで輝きが濁っている。



 まじまじとそれを眺めてからあたしはふと思い立ち、胸元から瑠璃(るり)の勾玉を引き出した。



 そしてなんの気なしに、紅水晶の勾玉をくるりと返すと、上下逆にしてあたしの瑠璃の勾玉とあわせてみた。



 ふたつは、見事なほどぴたりと合わさった。



「えっ!」



 あたしは驚きのあまり紅水晶の勾玉を取り落とした。勾玉はことんと転がると縁の隅で止まった。あたしは、目ではそれを追いながらもすぐに拾いあげることができなかった。



 な、に。え、そんなことってある?偶然拾った勾玉が、あたしのもともと持っていたものと、もとは一つの石だったと(まご)うぐらい完璧に断面が一致する、なんて…。同じ石から削りだしたならまだしも、瑠璃と水晶、ふたつはもともと違う石だ。誰かが明確な意図を持って作らなければ、形も、大きさも、全く同じものなんてできる訳がない。



 心臓の音が耳にうるさい。



 あたしは重い一歩を踏み出して、また紅水晶の勾玉を拾った。そしてもう一度、あたしの瑠璃の勾玉と、あわせてみた。



 合わ、ない…。



 何度合わせても、合わないのだ。さっきは二つで一つという方が自然なほど驚くべき精密さで噛み合った二つの勾玉が、それが幻であったかのように全く別々の個体と化していた。紅水晶の勾玉の方が、あたしの持つ瑠璃の勾玉よりも若干小さい。形も違う。当たり前だ。当たり前の、筈なのに…。



 心臓の音が、鳴り止まない。



 今、事実こうして噛み合わない勾玉を持っているのだから、さっきの方が幻か、勘違いに違いないのだ。安心して良いはず。なのに…なぜか落ち着かない。



 なんだろう、これ。なんだろう、この感じ…。



 あたしはびくりと体を引きつらせた。というのも、勾玉を持つあたしの手の向こうに人間の足が見えるのに気がついたのだ。




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