暁 〜小説投稿サイト〜
戦国御伽草子
参ノ巻
守るべきもの

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のかもしれなくても、あたしには他人の心の本当のところなんてわかんないし、それで全て許せるほど心も広くない。



「生き地獄って、知ってる?」



 あたしはぐぐと三浦に顔を近づけると、にこっと笑った。



「さっき言ってたわね。『公になれば、私たちがどうなるかは、承知してます』…って」



 三浦は逃げようと肩を引いたけど、逃がさない。その肩に爪を立て引き留めると、あたしは言った。



「あたしを敵にまわすということがどういうことか知れ」



 そう言ってあたしは三浦を突き飛ばした。刀を地から引き抜き、懐紙(かいし)で拭うと(さや)に収める。そのまま躊躇なく歩き出した。



「ま、待て!待て…待ってくれ!」



 悲壮な声があたしの背に追い(すが)った。あたしはゆっくり歩みを止める。



「か、金か!?な、何をしたら…金なら父上に頼めば…」



 金!?そんなもの!



「あたしはね」



 轟く怒りを身のうちに抑えこもうとして、声が震える。



「由良とあんたが結婚するって聞いた時、寂しかったけど嬉しかった。心の底から祝福するつもりだった。由良があんたに望んでたのは、金じゃない。地位でも名誉でもない。それが何かわからないなら、あんたは、この先一生由良も、その女も、誰ひとり幸せになんてできる訳がない」



 刀を握る手を、激しく意識する。



 命なんて、本気で奪おうと思ったら、きっとそれは凄く簡単なことだ。守る方が、もっとずっと難しい。



「…由良にはもう、二度と近づかないで!」



 そんな自分の感情が怖くて、あたしはその場から翔り去った。
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