参ノ巻
守るべきもの
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あたしは男の腹を蹴り飛ばすと地面に腰をつかせ、刀を素早く逆手に持ち替えると、思いっきり、男の首の横に突き刺した。刃は、落ちた男の横髪と肩の布を抉り、激しく地に突き刺さった。
「昨日はドーモ」
あたしはぐいと顔を男に近づけた。
「あんたを殺してやりたい」
自分でも驚くほど低い音で、その声はすんなり唇から落ちた。今、あたしは、どんな顔で、どんな声で、こんな酷い禍言を言っているんだろう。でもそれは確かに、激しく燃えるあたしの感情だった。
ねぇ。由良が、どんなに、嬉しそうにあんたのこと話してたか、知ってるの?
あたしはいい。三浦が昨日忍んできてあたしに狼藉を働いた男と同一人物でも、無事だったからもうそれはどうでもいい。以前、佐々の家の前をふらふらしてて三浦に伝言を頼まれたこともあった。その時あたしは佐々の炊女だと嘯いたけれど、いつからあたしのことを知っていたのかなんて問うまでもないだろう。きっと、最初からだ。
話は至極単純だった。目の前の男は、由良の思い人の三浦であって、昨日あたしに不埒なことをしようとした狼藉者その人。その本命が横で腰を抜かしている女で、つまり由良は家柄と金に目が眩んだ三浦に騙されたのだ。あたしにまで手を出そうとしたのは、佐々よりも前田の方が若君の覚えが良いとか、そんな理由でしょ。もしくは女にせっつかれて焦り、既成事実を作ればすぐ手に入ると思って佐々から前田に乗り換えたか。と言うか…こいつ、由良には乱暴していないでしょうね!?
「あんた、由良には、手、出してないでしょうね?」
「…できるものか。あんな未通女」
三浦は茫然自失だったのが、あたしの言葉ではっと我に返ったようで、吐き捨てるように言った。
…ん?
あたしはその態度に引っかかりを覚えたけれど、忘れることにした。
だって、ねぇ。あたしは怒っているのだ。
横でただ震えていた女が、それを聞いて信じられないものを見るように激しく三浦を振り仰いだ。瞳は飛び出さんばかりに見開かれ、この世で聞いてはいけないことを聞いたかのようにみるみるうちに血の気が引いていく。女は鋭い。男が全てと思い頼り切っている人間なら、尚更ちいさな変化にも目敏く気づくだろう。
それを横目で見ながら、あたしは激しい怒りに瞳の奥がちかちかと点滅するのを必死で押さえていた。
どうしたって、こいつは由良を騙しあたしを手籠めにしようとした。それが事実。例え三浦が由良に絆されてきている
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