参ノ巻
守るべきもの
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、まだ近くであたしのことを見ているのかもしれないし、もういないのかもしれない。もし近くにいても、どうせあたしにはわからない。ひとつだけわかったことは、男が見たこともないくらいものすごい手練れだということだけ。雰囲気も、気配も、なぜあたしのことを知っているのかさえ何一つわからなかった。
「なぜですか!そんな、女のこと!」
女の涙声であたしはもめている二人がいたのを思い出した。
「説明しただろう!わかってくれたんじゃなかったのか」
あたしは立ち去ろうと動かした足をぴたりと止めた。待って、この、声…。
「やっぱり、わかりません!私は嫌なのですお金のためとはいえ、あなたが…他の女などに…」
「好きなのはおまえだけだ」
「それでも!佐々の姫を側室に娶られるとおっしゃいましたけれど、そんなことは佐々家が絶対に許してくれないでしょう。末とは言え佐々の姫を三浦家が側室など…そうすれば私はどうなります?側室でも、傍女でも、佐々家が否といえば私はあなたに会うことすらできなくなります!ましてや前田の一の姫など、尚更ではありませんか。佐々家でも、前田家でも同じです。あなたのお側にいられないのなら!」
女はわっと泣き伏した。
「それでも金と地位は手に入る。贅沢ができるんだぞ。それにもう少し、声を落としてくれ。ここには他の人間も来る。誰に聞かれるか…」
「誰に、誰にですって!?これだけ私が言っても、あなたが気にするのは保身なのですか?自分の身がかわいいのですか!?」
「そういうことではない。誰のために私がこんな苦労をしていると思っているんだ。全部おまえのためだ。だから、声を落として…」
「公になれば、私たちがどうなるかは、重々承知しております!」
二人の声を聞きながら、あたしは冷静だった。自分でも驚くぐらい。
どうなんだろう。怒りが限界を超えて冷静なのか、それとも本当に冷静なのか…いや、どっちでもいい。あたしが今するべきことは限られている。
あたしはつかつかと二人に歩み寄った。二人はあたしに気がついて弾かれたようにこっちを見た。男はあたしの顔を見てさっと青ざめた。あたしは歩みを止めず、鷹男から貰ったばかりの刀を躊躇なく抜き放った。逃げれば良いのに二人とも、固まったように立ち尽くすだけだった。
あたしは無感情に男との間合いを詰めると、横一線に刀を振るった。
「ヒッ、ヒイイッ」
女が妙な声を上げて、へなへなと座り込んでしまった。その横に、ぼさり、と男の髷が落ちた。
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