参ノ巻
守るべきもの
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「離せ」
「や!」
「瑠螺蔚」
男は呆れたように言った。男があたしの名をなぜか知っていても、あたしは不思議と驚かなかった。
なにか言わなきゃと思ってあたしは口を開いた。
「その、紅水晶の勾玉、あんたのなの」
「そうだ。決して無くしてはならぬものだ」
そう言ってからすこし黙ると、男はまたあたしをちらりと見た。男の目つきは鋭く、睨まれているようであったけれども、やっぱりあたしは怖くなかった。目つきが悪いだけで本当に怒っているわけでないとわかっていたからかもしれない。
「落としたのは俺の失態だ。拾ったのがおまえで良かったな」
勾玉は上から落ちてきた。落としたと言うことは、天井にいたのだろうか…。
「忍?」
あたしがそう言うと、男は笑った。まるで無知な子供を笑っているようだった。
「この借りは返す。見せてやろう。おまえの求める真を」
そう言うと男はするりとあたしの手から鋼のような腕を抜くと歩き出した。
「えっ、ちょっと待って!」
あたしはあわててあとを追ったが、男の足は走っている訳でもないのに恐ろしく速かった。
どんどん男との距離が開いて、見失わないようにするので精一杯だった。
どれくらい歩いたのか。何度目かの角を曲がったところで、目の前に遙か先を歩いていたはずの男がいて、あたしはもろにぶつかってしまった。
い、いった〜!
鍛え上げられた男の体はどこもかしこも硬くそれだけで立派な凶器で、ぶつかった方はたまったもんじゃないわよ本当に。
あたしは鼻を押さえて男をちょっと睨んだ。
「これぐらいの気配もわからなくてどうする」
男にそう言われたけれど、わかるわけない。あたしはただのか弱い姫なんですから!
「獣くさい」
「褒め言葉だな」
文句のつもりでそういうと、男はまた笑った。
「見ろ」
男が指さす先には男と女がいる。なにやらもめているみたいだ。
「ちょっと、何を…」
明らかに取り込んでいる様子に、のぞきが趣味でもないあたしは男に文句を言おうとした。
けれど、もういなかった。男の影も形も。もしかして今のはあたしの白昼夢や幻覚だったのかとさえ思うほど見事に男はその場から消えていた。あたしはきょろきょろと辺りを見回したけれど、すぐに諦めた。男は
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