参ノ巻
守るべきもの
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もちろん足だけなんてことはなく、辿ればちゃんと体もあり頭もあり、手もあった。
でも…。
あたしは何度も目をしばたかせた。
目の前の男は、あまりに異様な風体をしていたのである。
着ているものは布じゃなく皮。獣の皮だ。熊か狼か、大きな毛皮を身に纏い、腰に紐か何かで巻き付けていて、山賊のほうがまだましな格好をしている。鍛え抜かれた足や腕は露出していて、日に焼けたのか真っ黒だ。何より目を引くのはその顔。釣り上がった目尻に、青と赤の派手な入れ墨をいれているのだ。耳には耳飾りがいくつもつき、多分、耳自体に穴を穿って通してある。髪は髷なんて到底結えないほどの短髪。そして男の右頬には、大きな傷があった。
どう見ても、いつの時代かと思うぐらいの格好をした男だった。下手をすれば乞食よりも酷い格好だけれど、不思議と男はまるでこの城の主だと言わんばかりの面持ちで堂々と立っていた。
それに…この男、一体いつからいたのだろう。そして音も立てずにどこから来たのだろう。
男は、あたしを真っ直ぐに見ていた。
そのまま、男はゆっくりとあたしに右手を差し出し、右手の平を仰向けた。
あたしは、引き寄せられるように、その掌の上に紅水晶の勾玉を乗せた。
男は乗せられた勾玉を握りしめると、瞬きをした。瞳を閉じ、開けた時、男の表情が動いた。
自分を嘲るように苦笑したのだ。無表情だった時に男の歳は三十にも四十にも思えたのだが、笑うと随分と幼く見えた。本当は、もっとずっと若いのかもしれない。
一瞬あたしの持つ瑠璃の勾玉を見て、それから男はまた表情を消すと、あたしの顔を見た。
「なぜ泣く」
低い声でそう言われて初めて気がついた。あたしは泣いていた。しかも、子供みたいにぼろぼろとみっともなく涙をこぼして。
「わかんない」
言い方まで子供っぽくなってしまった。声に甘えたような響きが混ざったことに、あたし自身驚き、そして慌てた。初対面の、こんな怪しい人に対して、『甘える』なんて単語が出るのがおかしい。でもなぜか、あたしは全く恐怖心を感じていなかった。
「どうしたら強くなれるの」
あたしはしゃくり上げながら言った。男はみっともなく泣くあたしをじっと見ていた。
「…強くなりたいと本当に望むのなら」
男はそれだけ言うと、ふいと視線をそらせた。
「待って!」
あたしは咄嗟に男の腕を掴んだ。
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