第三十一話 ドラクール
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89年 7月24日 フェザーン ドラクール ボリス・コーネフ
「ようマスター、景気はどうだい」
本気で問い掛けたわけではない、ここには三日と空けずに通っている。俺の問いかけにマスターは肩を竦める仕草をした。分かっているだろう、そんなところかな。
「あんまり良くないな。日々客が減っている。あんたが酔って管を巻いていたのが懐かしいよ。あの時は大勢いたからな」
「悪かったな、管を巻いて」
黒姫が攻めてきた時の事だな。口の悪い親父だ。俺が顔を顰めると微かに笑みを浮かべた、口だけじゃなく性格も悪い。
店には古い歌謡曲が流れていた。十年前に人気のあった歌手の歌だ。だが余り人のいない店にはその曲が良く似合っていた。振付の華やかな賑やかな曲、いや似合っていないのか……。カウンター席に座りブラックルシアンを頼む。マスターは黙ってウォッカとコーヒーリキュールを用意した。
曲が変わった頃、ブラックルシアンが出てきた。次も同じ歌手の歌だ、ずっとこいつの曲が続くのだろう。一口飲む、コーヒーリキュールの香りが鼻腔をくすぐる……。
「独立は諦めたのかい、コーネフ船長」
嫌味かと思ったがそうでもない様だ。こっちに向けた視線には棘も無ければ冷やかしの色も無い。
「……難しいな。……黒姫の奴、銀行と輸送会社を押さえちまってる。それにエネルギー会社もだ。おまけに帝国と同盟のデカいところも押さえてるんだ。下手に逆らうと簡単に潰されるだろう、えげつない野郎だよ……。皆現状に不満は有るがどうしようもない、そんなところかな」
俺の言葉にマスターが頷いている。もっとも俺の言った事など既に他の誰かから聞いて知っていただろう。
同盟のレベロ議長も黒姫には及び腰だ。黒姫が取得した株を無効にするかと思ったが結局は何もしなかった。ヴァンフリート割譲条約も破棄していない。同盟がもたない事は皆が分かっている。同盟政府は黒姫を怒らせて同盟滅亡後に報復を受けるのを恐れているらしい。イゼルローン要塞を攻略しフェザーンを占領した黒姫はローエングラム公以上に危険視されている。
「ここに帝国が都を遷すって話は聞いているか?」
マスターがボソボソと話しかけてきた。
「ああ聞いている。その事も皆の士気を挫いてるよ。ここが帝都になるなら今以上に繁栄するだろうってな」
俺の言葉にマスターが黙って頷いた。
なんとも遣り切れない思いだ、……溜息が出た。ブラックルシアンをもう一口飲む。……失敗だったな、他の奴を頼めばよかった。甘い香りが切なくなる……。音楽も良くない、昔を思い出すぜ、古き良き時代を……。
「ボルテックも帝国に付いちまったしな」
「ああ、新帝国が出来たら尚書閣下と呼ばれるらしい、目出度い事だ」
マスターの言う通り、全く目出度い話だ。ボルテッ
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