第一幕その五
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だったそうですが」
「芸術がわからない輩も多いのです。気にしてはいられません」
「そうだったのですか」
「あの作品は歴史に残るかも知れませんぞ。あの若い作曲家も」
「ワーグナーも」
「ええ。どうやらかなり女癖が悪く浪費家でしかも尊大な人物らしいですが。それでも作品は大したものです」
実際にワーグナーの人間性はお世辞にも褒められたものではなかた。よく反ユダヤ主義を批判されるがそれ以外にも非常に問題の多い人物であったのだ。
「面白そうな方ですね」
「身近にいて欲しいタイプではないですが。まあそうかも知れませんね」
「一度見てみたいですわね」
「ワーグナーの方をですか?それとも彼のタンホイザーを」
「両方を」
彼女はにこやかに笑ってそう言った。
「その時は何方かと」
「エスコートさせて頂きますが」
「喜んで」
「有り難うございます。ではその時に」
「はい」
ガストーネは一礼した。そしてまたヴィオレッタに対して言った。
「マダム、ダンスはどうされますか」
「今日は少し」
青い顔で言った。
「申し訳ありませんが」
「仕方ありませんね。それでは」
「はい」
こうしてガストーネは部屋から去った。そしてまたヴィオレッタとアルフレードだけになった。
「御覧になされましたか」
今の自分とガストーネのやりとりをアルフレードに見せたうえで声をかけてきた。
「今のが私なのです」
そしてこう言った。
「おわかりになられましたでしょうか」
「しかし」
「とりあえず恋のお話はこれで。宜しいでしょうか」
「ですが」
「ですがもなく。私にはそうしたものは縁がありませんから」
「それでも」
「仕方のない方ですね」
根負けしたのか薄い苦笑の後少し溜息を漏らしてこう言った。
「わかりました。ではまた御会いしましょう」
「それは何時でしょうか」
「はい」
ヴィオレッタはそれに応えるかのように自分の胸に手をやった。そしてその椿を取った。それをアルフレードに対して手渡した。
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