Episode 2 狼男の幸せな晩餐
夜半の来訪者
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とがあれば、即座に魔界に戦争が起きるだろう……吟遊詩人たちがそう嘯くのもあながち大げさといえないだけに、実に恐ろしい話だ。
――夏場はクリームコロッケはやらないんですって公表するの、いつにしようかな?
キシリアの顔に一筋の汗が流れた。
「まぁ、そこまで言ってくださると私も腕の振るい甲斐がありますわ。 ところでノルベルトさん……今日の晩御飯はもうお済みですか?」
夜行性の人狼にとって、今の時間はせいぜい昼前ぐらいの感覚だ。
晩御飯とはいうものの、彼等にとってはブランチ程度の感覚である。
「じ、実はまだ夕方に起きてから何も食べてなくて……」
キシリアがニッコリと微笑むと、人狼の青年は視線をそらして頭を掻いた。
もし彼の顔が深い毛並みで覆われていなければ熟れたリンゴのように真っ赤になっていただろう。
志津は狩り、先ほどからキシリアと目が合うのが照れくさくて、この場の空気が気恥ずかしくて、先ほどからそわそわと体がどうにも落ち着かない。
シルキーの姿は例外なく目麗しいのだが、中でもキシリアはツンと取り澄ましたところがなくて表情が柔らかいため、他の魔族からのウケが非常に良いのだ。
――街の青年たちが裏で"蕃茄の君"と呼んでいるのは、本人だけが知らない秘密である。
ちなみにこの世界の蕃茄はイタリアントマトに味も見た目もソックリな食べ物だ。
地球のフルーツトマトより甘みがさらに強く、こちらでは愛らしい果実の代表で通っている。
「もし、よかったら晩御飯を食べてゆかれませんか? ありあわせのものになりますが」
本人は気にしないといってはいるものの、ただでさえ獲るのが大変な大変なゴリアテカワアザミをこんな短時間で大量に獲ってきてくれたのだから、このまま何の礼もせずにいれば次が頼みづらい。
料理人であるキシリアからの心遣いといえば、他に選択は無いだろう。
「ほ、本当ですか!? いやぁ、光栄です! まさかキシリアさんのところで晩御飯にあずかれるなんて……」
にくからず思っている相手からの誘いの言葉に、ノルベルトのシッポがピンと真っ直ぐに立った。
「じゃあ、中に入って暫く待っていてくださいね。 仕込みは終わっているヤツを使うので、20分ほどではじめられますから」
そう告げると、キシリアはノルベルトをリビングに案内する。
その後ろを、筋骨逞しい人狼の青年が尻尾を振りながらついていった。
「とりあえず蟹のグラチネからでいいか」
そう呟くと、キシリアは30センチほどの蟹の甲羅を取り出した。
まだ子供のヘラクレスオオマンジュウガニの物である。
その甲羅を軽く理力の炎で炙って香りを出しながら、解呪した瓶詰めの蟹の身、
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