Episode 2 狼男の幸せな晩餐
夜半の来訪者
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しかも商品として狩るならさらに困難が付きまとう。
迂闊に攻撃すれば殻の皹から旨みのたっぷり詰まった体液がこぼれてしまうために商品としての価値がなくなってしまうし、さらに死んでしまった蟹はあっという間に鮮度が落ちてしまうのだからたまらない。
はっきり言って魔界の蟹漁は無理難題の領域である。
当然ながらそれを獲る漁師も並みの強さでは務まらず、蟹漁に手を出すような奴は全員が魔王の衛兵と互角に戦えるような猛者ばかりだ。
こんな凶悪な生き物をどうやって無傷で生け捕りにするか、キシリアも以前から気になって仕方が無いのだが、何度聞いても漁師たちは企業秘密だからといって笑って応えるだけである。
そして、そんな蟹を獲る漁師には、人狼が非常に多い。
理由は彼等のもつ"不死性"の理力のせいだ。
当然ながら死人が出ることも多い蟹漁だが、銀や魔力のこもった武器以外で切られても死なないという理力を持つ人狼ならば、魔力を帯びない蟹の鋏で真っ二つにされても満月の時期には生き返るわけで……彼等にとってはまさに天職とでもいうような生業なのである。
ちなみに目の前の青年――ノルベルト・ヴォルフーフ・ツィフラーシュは、都市国家ビェンスノゥの魚河岸を仕切る老舗鮮魚卸問屋ツィフラーシュ商会の跡取り息子。
およそ予想はつくだろうが、この世界の鮮魚卸問屋は水棲の魔物を狩る凄腕の戦闘集団である。
そして蟹の捕獲においては、この若さにしてすでに名の知れた凄腕漁師であった。
……余談だが、料理という文化の無い魔界においても蟹は庶民にはなかなか手の出せない代物で、そして美味な食品として人気が高い。
「いやぁ、気にしないでください。 自分もキシリアさんの弁当の大ファンでして。 こんな無茶ならいつでも歓迎ですよ! それに、あのカニクリームコロッケが店頭に並ばないなんて暴動が起きます!!」
ウソでも大げさでもないのが実に厄介な話だ。
前に一度同じようなことがあったのだが、その時は街の外壁が崩れるほどの騒ぎとなったので、街の兵士からも欠品が出ると気は事前に連絡が欲しいといわれるほどである。
まぁ、無理も無い。
この魔界"モルクヴェルデン"において、料理なんて気の利いたモノを売る店はここにしかないのだから。
美食に取り憑かれた挙句に人間の料理人を奴隷として囲っている一部を除いては、魔王たちですら晩餐に生肉かチーズをかじるのが普通というのだからその食生活の乏しさは推して知るべし。
もっとも、そんな料理人を抱えて毎日美食に耽る魔王たちですらキシリアの料理は別格として扱い、美食にまったく興味の無かったほかの魔王ですら魂を奪われて目の色を変える。
もしもキシリアの料理を一人の魔王が独占するようなこ
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