アインクラッド 前編
救われた出会い
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ウマの心を根底からぐらつかせる。不明瞭な期待感が確証を得ない論理を補完し、完全無欠のように見せかける。
そして、今のトウマに、冷静な判断力など望むべくもなかった。
震える両手で柵を掴む。かしゃん、という金属音が響き、無機質ゆえの冷たさが掌の体温を奪う。トウマは柵から身を乗り出し――。
(……ッッ!!)
こみ上げてきた恐怖感に負け、咄嗟に飛び退いた。一度落ち着いた息と心拍数は乱れに乱れ、掻き鳴らされる鼓動がトウマから音を奪う。音のない世界で、堂々巡りの思考が廻り始める。
――飛び降りたくない。けれど、一刻も早くここから逃げ出したい。
二つの恐怖のせめぎあいに、トウマは柵に近付いては離れ、身を乗り出しては飛びずさる。
そして、トウマが力なく柵の傍に座り込んだとき、彼にかけられた一つの言葉によって無限回廊は壊されたのだった。
「何やってるんだ?」
「へ? う、うわっ!?」
――ついに追っ手が来たのか?
そう考える暇もなく、トウマは慌てて立ち上がろうとして、あえなく失敗した。無理に力を入れた足の筋肉は、いつも支えているはずのトウマの自重に耐え切れず、膝からがくんと折れて後ろに倒れる。
その後も何度か立ち上がろうとするが、足の筋肉は情けなく震えるばかり。ならばと痙攣する声帯を必死に動かそうとするが、言葉はおろか風切り音すら発せない。
トウマがどうしようもなくなって俯くと、数秒後、その誰かの気配が近寄ってきたのを感じた。
反射的に顔を上げる。
すると、トウマの前に、一つの顔があった。輪郭線が細く、肌は白め。少し長めに切り揃えられた髪が、微妙に目にかかっている。パーツだけを見れば、暗そうな高校生といった感じ。トウマにも、こんな顔立ちをしたクラスメートには何人か心当たりがある。
しかし、眼前の彼が浮かべる表情は、同級生のそれとは全く異なっていた。唇は直線で結ばれていて、髪の奥の瞳は冷たい光を湛えている。理知的、あるいはクールと形容するのが相応しいだろう大人びた表情は、トウマが知る同級生の、もっと言えば、今までに出会った人物が浮かべたもののどれにも当てはまらない。
そしてトウマは、自分の思考がやけに落ち着いていることに気付いた。他の音が聞こえないほどうるさかった鼓動も、今は耳を澄まさなければ聞こえないくらいまで沈静化している。声帯の痙攣も止まったようで、今すぐにでも声が出せるだろう。たしか、物質の振動は温度とイコールだったから、彼の冷たい視線によって冷やされた体や頭の動きが止まったのだろうか。
トウマは、頭の隅に残っていた物理の記憶を引っ張り出した。温度云々はともかく、どうやら、思考が横道にそれる余裕がでるくらいには落ち着けたらしい。
トウマはゆっくりと息を吸い、言葉に変
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