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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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〜絶望と悲哀の小夜曲〜
最後の血戦
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はいかない。彼女はただの被害者だ。

レンのワイヤーは非常に強力だが、その反面加減が利かない。基本的に振り回すという攻撃方法なので、力を抜いても入れても総合的な攻撃力にはあんまり影響はない。

だからレンは右手を後方に引く。その手のひらに、鮮やかな青色の光が集まっていく。

体術派生スキル《拳術》、重単発技《インパクシング》。威力はそこそこなのだが、レンがこの技を選択した理由は別にある。

それはこの技に付随する、ある特殊効果ゆえだ。それは《一定確率での行動不能(スタン)の発生》。

通常、行動不能(スタン)は短時間に大ダメージを立て続けに喰らった時に低確率で発生する現象だ。ほんの一瞬、体が硬直するという他愛ない効果だが、それが戦闘中だと必然的に恐ろしいことになってしまう。

そんな行動不能(スタン)を意図的に発生させることができるのが、この技《インパクシング》なのだ。

とは言っても、この技も絶対にスタンを発生させるわけではない。だが、大ダメージを喰らわすと言うリスクよりはよっぽどいい。

決心を固めたレンは、せめて一発でスタンが起きるように、精一杯の気迫を拳に乗せて走り出す。その青色に輝く拳はみるみる突っ立ているエクレアの腹部に近付き、めり込んで───

しかし、予想したインパクトは生まれなかった。代わりに───

ふわり………、としか形容できない柔らかい手応えを感じ、レンは自らの失策に気が付いた。

しなやかに伸びたエクレアの右手がレンの拳にそっと押し当てられ、小さな外向きの遠心運動で発動中のソードスキルを巻き込んでいく。

そんなわけはないのだが、レンの目には、軟素材に変じたエクレアの腕がレンの右腕を螺旋状に絡め取っていくように見えた。

だが、そう感じたのも束の間───

「ふっ!」

こちらも瞬間的な呼気に乗せ、エクレアは一歩踏み込みながら右腕を大きく震わせた。

途端、瞬間的な反発力がレンの腕から肩、胸を強打した。

「くうぅっ…………」

声を上げた時にはもう、ひとたまりもなく後方へと吹き飛ばされていた。

姿勢を制御することもできず、何度もバウンドしながら床と同じ黒曜石でできた壁に激突する。轟音とともに壁に大きなクレーターができる。

「ご……はっ!」

肺の奥から丸ごと空気を吐き出しつつ、目の前でぴーちくぱーちく飛び回るヒヨコ達を一秒以上も眺めてしまってから、レンは頭をぶんぶん振って素早く立ち上がる。脚がふらつくのを意志力を振り絞って止める。

「…………柔……法」

思わず口をついて出てきたレンの掠れた声を聞き、エクレアはふっと力なく微笑んだ。

「懐かしぃわねぇ。テオドラにこれを教えたときのこと」

そう言って、エクレアは微笑した。
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