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椿姫
第四幕その四
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「私を娘と」
「はい」
 ジェルモンはこれに応えて頷いた。
「貴女をそう呼ぶ為に私は今ここに来たのです」
「お父さん、それじゃあ」
「うむ」
 ジェルモンの目が優しいものとなった。
「世間の評判なぞ。どうとでもなるものだ」
 彼もようやくわかったのだ。
「それは幻想に過ぎない。つまらない者達はどのような相手であっても中傷するものだ。そして真に心が清らかならば神が御加護を授けて下さる」
「神が」
「そう。御前とこの方には神の御加護がある」
 アルフレードに対して言った。
「今それがわかった。・・・・・・私は愚かな男だった」
「いえ」
 だがヴィオレッタはその言葉に首を横に振った。
「私はそれでもう満足です。貴方にも認めて頂いたのですから」
「何と言えばいいのか」
 ジェルモンもまた心を打たれていた。
「私の様な者に」
「貴方によりアルフレードは生まれました」
 ヴィオレッタは言った。
「そして私の前に姿を現わして頂きました。これが私の運命を変えたのですから」
「しかし」
「それが何よりの証拠です。それだけでもう」
「何という方だ」
 次第に言葉に詰まるようになった。
「私の様な愚かな老人に対しても」
「アルフレード」
 ヴィオレッタは今度はアルフレードに対して顔を向けてきた。
「何だい」
「貴方にお渡ししたいものがあるの」
「僕に」
「ええ」
 そう言いながら首かけているペンダントを外した。それをアルフレードに手渡す。
「これを」
「ペンダントを」
「その中にね、私の肖像画があるわ」
 アルフレードに手渡しながら説明する。
「だから。受け取って。そして私のことを」
「馬鹿な、何を言っているんだ」
 今度はアルフレードが信じられなくなった。
「君は僕とずっと一緒にいるんだろ?」
「ええ」
 それには頷いた。
「それを。どうして」
「貴方と一緒にいる為に」
 ヴィオレッタは言った。
「だからお渡しするのよ。私はその中にいるから」
「この中に君が」
「そして貴方の心の中に」
「僕の心の中に」
「そう」
 今にも消え入りそうな声になっていた。だがそれでも言った。

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