SAO編
one day 生命の碑にて
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に見える夕日は、もうすでにその大半を海へと沈めている。
辛うじて残った最後の一筋の光は、まるで何かを訴えるかのようにいつまでも俺を照らし続けた。
◆
ヒースクリフが去って、どれくらいの時間が経ったか。
最後の光が名残惜しげに消えて、空飛ぶ鋼鉄の城は夜の闇に包まれていく。それにつれて、俺の身を隠す『隠蔽』のスキルはその練度を高め、半端な『索敵』では到底姿をみることが敵わないレベルへと体を暗闇に溶け込ませていく。
『生命の碑』は、無人ではない。
黒鉄宮を拠点とする『軍』のメンバーがちらほらと見られる。
質素な装備をした…おそらく始まりの町から出ていないプレイヤーが、そそくさと駆けていく。
…そして、数人のパーティーが、花を石碑に備えていく。
あるものは唇を噛み締め、あるものは涙ながらに他の者に持たれ、あるものは己の成長を述べ。
彼らが去ったあと、俺は石碑の前に立った。
伸ばした手で、そっとその表面に触れる。なめらかな手触りに、刻まれた名前。
プレイヤー名、「Sora」。
それをかき消すように刻まれる、横一本の線。非情で残酷な印。
それを、そっとなぞる。
本来は横一本、何の歪みも毛羽立ちもない線で消されるはずのその名は、まるで何かに激しく抵抗するようにささくれ立っていたように感じた。まるでそれは、彼女の死がこの石碑に刻まれる名の中で特殊な存在であるかのように。
いや、それは単なる俺の妄想に過ぎないだろう。きっと俺の中で、彼女の死をほかの名も知らぬプレイヤーの死と同等にしたくないという、醜い感情が渦巻いているのだ。
刻まれる線を、何度もなぞる。
何度も、何度も。
どれくらいの間そうしていたか。
俺は何も告げることなく、身を翻す。
あるいは、ソラに何も告げることができないままに逃げ出す。
空っぽの俺は、そうしてどこへ行くでもなく転移門へと歩き出す。
いつの間にか暗雲が立ち込めていた空から、一滴の雨が落ちる。
それはすぐさま本降りの雨となり、街を、世界を、俺を容赦なく濡らしていった。
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