SAO編
one day 生命の碑にて
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、未だ傷のない名を連ねる者を数えているのか。
見た、というよりも長い時間をかけてその碑文を眺めた後、さらに紅い騎士は言う。
「『勇者』がいなくなったとしても、世界が終わることは無い。…攻略は、続く。彼女の死を超えて、我々はこの先のボス戦を戦い抜かなければならないのだ」
そこまで告げて、再び言葉を区切る。
視線は石碑を離れて、空を…はるか情報へと向いていく。
未だ攻略されぬ上層を。
そして最上階、百層を見据えるように。
ああ、この男は。
この、全プレイヤー中最強と謳われる戦士は。
誰が死んでも、この世界が続くと言い切った。
誰を失ったとしても、この攻略をあきらめることはないと断言した。
―――この男は、本当に、本物の『攻略組』だ。
―――俺と違って。
俺は。
「いいや。…終わったよ。世界は」
俺は、そこまで強くなかった。
「…俺はもう、この先なんにもできる気がしねえよ。…もう、俺は終わっちまったよ」
ソラを失って、俺は笑ってしまうくらいに空っぽになってしまった。
あの夏の日以来、俺はギルドホームに帰っていない。いくつものクエストアイテム…それも希少価値的には中層エリアで館でも買えそうな額になるだろうアイテム達が倉庫に眠っていることは分かっていたが、それを取りに戻る気には到底ならなかった。そんなものに何の意味も感じなかったし、むしろそれを…ソラ達との冒険の思い出を彩るそれらを見るのに耐えられる自信がなかった。
レミ、ファーの二人にも、連絡は取っていない。彼女を死なせてしまった俺がどんな顔をして会えばいいのかわからなかったし、皆の表情を見るのが恐かった。罵られるにしても、慰められるにしても、あるいは憐れまれるにしても、それに耐えきれない。
それに。
何をしても、ソラは還ってこない。
「……俺のSAOは、あの日もう終わっちまったんだ…」
あの、二十七層の初めての出会いの日から、俺の世界はソラを中心に回っていた。
その世界が、確かに終わった。
涙も流れないほどに、俺はもう終わってしまっていた。
あとはもう、空虚な世界を漂うだけの残り滓としての日々があるだけ。
そんな俺を見て、ヒースクリフは。
「……定められた『勇者』がいないということは、この世界では逆に言えば望むならば誰もが『勇者』足りえるということだ。皆を率いる『勇者』が斃れたのならば、誰か別の者がその役割を引き継いでいくことになる」
俺とは見ている世界が違うと感じさせる真鍮色の眼で、俺の何も映さない瞳を見て。
「……だが、その『勇者』は、君ではなかったようだな」
そう言った。
石碑の向こう
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