第三十話 テオドラ
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ハイト」
公の問いかけにファーレンハイト提督が苦笑を浮かべた。
「金では随分と苦労しております、嫌でも詳しくなりました」
「なるほど」
ローエングラム公とファーレンハイト提督の会話に一瞬だが会議室の空気が和んだ。彼方此方で苦笑めいた笑みが漏れている。
「問題はもう一つあるな。株を譲渡させた場合、黒姫の頭領に対して何を以って代償として与えるかだ。何も無しというわけにはいくまい」
ビッテンフェルト提督の言葉に皆が気まずそうにローエングラム公を見た。公は顔を顰めている。フェザーン回廊とフェザーン、それに一兆帝国マルク相当の貴金属、国債が約十二兆帝国マルクと約十五兆ディナール、譲渡させた株、アドリアン・ルビンスキー、長老委員会……。溜息が出そうだ。
「借金だけでも十二兆帝国マルクと十五兆ディナールが減ったわけだからな」
「十五兆ディナール? 反乱軍の国債もカウントするのか?」
ルッツ提督がファーレンハイト提督の言葉に驚いたように問いかけるとファーレンハイト提督が“そうだ”と頷いた。
「反乱軍を滅ぼし新帝国を作る、当然だが反乱軍が発行した国債は新帝国が責任を持って償還しなければならんだろう。国債だけじゃない、遺族年金も同様だ、全て新帝国が保障する。そうでなければ占領地はあっという間に生活苦に陥る人間で溢れる事になる。金が無いのは辛いぞ、あれは人の心を荒ませるからな」
ファーレンハイト提督の口調は苦い、皆言葉も無く黙って聞いている。
「黒姫の頭領が通貨の統一、交換比率を決めろと言ったのもそれが有るからだろう。現物だけではなく電子も対応しろと言っていたからな。そうじゃないかな、ボルテック弁務官」
ファーレンハイト提督の言葉にボルテックが大きく頷いた。
「ファーレンハイト提督の言う通りです。これは良い悪いの問題ではありません、やらなければ占領地は貧困者で溢れる事になります。あっという間に同盟市民は帝国に対し反政府活動を始めるでしょう。一つ間違うと征服しなかった方が良かった、そんな事になりかねません」
皆が顔を見合わせている、何度めだろう。しかも回を重ねるごとに疲れた様な表情になっていく。宇宙統一はそれほど難しくないと思っていた。しかしそれは軍事的にはだ。戦争だけで統一出来るわけではないという事だな、問題は山積みだ。そしてその問題を黒姫は誰よりも認識しているようだ。
「つまり十五兆ディナールの国債は有難い贈り物か、借金を払わなくて済むのだからな」
「その通りです。十二兆帝国マルクも同様です、その分だけ帝国の財政負担が少なくて済みます」
ローエングラム公が面白くなさそうに問いかけるとボルテックが生真面目に頷いた。公の表情が益々渋いものになった。
「小官は積極的に株の所有を認めるべきだと思います」
「!」
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