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椿姫
第二幕その六
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レッタが僕を。そんな・・・・・・」
 ここで玄関にまた誰かが姿を現わした。それはすっとアルフレードの方にやって来た。
「アルフレード」
「お父さん」
 見ればそれはジェルモンであった。アルフレードは父に顔を向けた。
「来られていたんですか」
「御前のことが気になってな」
 彼は沈痛な顔でそう答えた。
「御前に何が起こったのかはわかっている」
 彼は優しい声で息子に対してこう言った。
「だからこそ聞いて欲しい。いいか」
「僕にかい?」
「そうだ」
 彼は言った。
「御前はパリに出るまでずっと私達と一緒にいた。故郷のプロヴァンスに」
「うん」
 彼は椅子に座った。そして落胆したまま父の話を聞く。
「それは覚えているだろうか。あの優しい海と陸を」
「忘れる筈ないじゃないか」
 彼は弱い声で父にそう述べた。
「今までずっと住んでいたのに」
「そうだろう。ではあの太陽も覚えているな」
「うん」
 アルフレードはまた頷いた。
「あのプロヴァンスにこそ御前の居場所があるのだよ。あの地こそが御前の安住の地なんだ」
「パリじゃなくて」
「そう。そしてここでもない」
 彼ははっきりと言った。
「ここにいては御前も道に迷うところだった。だがそうはならなかった」
「お父さんのせいで?」
「違う」
 それには首を横に振った。
「神の御導きなんだ。全ては」
「僕は神により今の仕打ちを受けているんだね」
「何故そんなことを言う。御前がパリに出た時から我が家は変わった」
「そうだったの」
 声にはもう魂が宿ってはいなかった。虚ろな声となっていた。
「家は悲しみに閉ざされた。そして御前の話を聞く度に私は辛かった。心配でならなかったのだ」
「そしてここまで来たんだね」
「来てよかった。御前は救われたんだ」
「どうしてそんなことが言えるのさ」
 彼は首を横に振ってこう言った。
「僕は。全てを失ったというのに」
「御前は何も失ってはいない」
 これは慰めではなかった。真実であった。
「全てを失ってしまった人は別にいる。その人は御前の為に犠牲になったのだよ」
「嘘だ」
 彼はそれを否定した。
「そんな筈がない。そんな筈が」
「いや、本当のことなのだよ」
 この上なく優しい声であった。顔も。それは息子を愛する父親のものであった。
「全ては。そして御前は」
「僕は認めない」
 そう言ってまた首を横に振った。
「こんなこと。認められる筈がないじゃないか」
「何を言っているんだ」
 ジェルモンは立ち上がったアルフレードに対して言った。
「聞き分けられないか。私の言葉が」
「お父さんの言葉じゃないんだ」
 彼は父の言葉とは別のことを見ていたのだ。
「ヴィオレッタが何処に行ったのかはもうわかっ
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