第二幕その四
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「私の様な者には」
泣きそうになるがそれは必死に堪えていた。泣くわけにはいかなかったのだ。
「こうなるしかなかったのでしょう」
「仕方のないことなのです」
ジェルモンはまた言った。
「この世の中というものの創りがそうなのですから」
「今程それを恨めしいと思ったことはありません」
目を閉じ、首を横に振ってこう言う。
「けれど道を踏み外してしまった者には。夜の世界の者には。所詮愛なぞというものは適わぬものなのでしょう」
そう思うしかなかった。そう思わないと心が壊れそうであったのだ。ヴィオレッタも一人の女性であった。
「では彼には」
「はい」
「何をすればよいでしょうか」
「愛していないと仰れば」
「それは駄目です」
首を横に振ってそれは否定した。
「あの人は信じはしないです」
「ではここを去られれば」
「それもまた」
これもまた否定した。
「彼は私を探すでしょう」
「ではどうすれば」
「私に考えがあります」
沈んだ声で言った。
「これでしたら」
「では貴女にお任せします」
「有り難うございます」
ジェルモンも辛かった。心が潰れそうであった。しかし子供達への想いが彼を支えていたのであった。こうした意味で今二人は互いに愛を争わせていたのだ。そしてジェルモンが勝った。彼だけならばこうはならなかったであろう。しかし彼は子供達の為にあえて鬼となっていたのであった。全てを犠牲にする哀しい鬼であった。
「けれどあの人は私を恨まれるでしょう」
「アルフレードが」
「はい。人とはそういうものです」
彼女は言った。
「何も告げないで去られると。疑いが生じますから」
「あれには私が伝えておきましょう」
「宜しいのですか?」
「せめてこれ位は」
彼は自分の言っていることもしようとしていることもわかっていた。だからこそこの役を買って出たのだ。また出ずにはいられなかったのだ。
「私の役目です」
「有り難うございます。けれど」
それでもヴィオレッタの顔は晴れはしなかった。
「私はもう」
「貴女には何と申し上げてよいかわかりませんが」
ジェルモンは言った。
「またよいことが。神がおられる限り」
「神ですか」
ヴィオレッタは神の名を聞いてまた哀しい顔になった。
「神は私の様な者を救われはしません」
「それは」
だがジェルモンにこれを否定することはできなかった。キリスト教の世界において夜の世界とは忌むべきものである。彼が今ここに来たのもヴィオレッタが夜の世界の住人だからである。神は昼の世界にこそ存在しているのである。夜の世界には存在してはいない。
「ですが貴方だけには知って頂きたいのです」
「このことをですか」
「はい。アルフレードの為に、そしてあの人の為に身を引いたこ
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