流石にその数を捌くことは無理だと判断したのか、インキュベーターはすぐさま身を翻し、魔女から離れんと走り出す。間をおかず、その小さな体を追うようにして記号の群れが飛び出す。脱兎のごとく駆けていくインキュベーターは、進行方向から来る弾を潜り抜けたものの、窮地を脱していない。よけた記号は途中で反転し、インキュベーターを追う弾丸の群れに加わってしまうためだ。そして、いつの間にか魔女の凶弾は、全てが赤い外套の背を追う形になっていた。それを確認すると、インキュベーターはおもむろに振り返り、耳毛を突き出す。
「 I am the bone of my sword――」
その口が言霊を紡ぎだした時、その奇跡は形を成し、顕現した。
「“熾天覆う七つの円環”!」
刹那、巨大な赤い花が咲く。突き出された耳毛から7枚の赤い花弁が壁の様に展開され、インキュベーターを守護する盾となった。魔女の放った無数の魔弾は、花弁の盾に阻まれて1発たりとも通り抜けることができない。
「ふむ、他に攻撃手段はないようだな」
確認するように、鷹の眼のインキュベーターが呟いた。鉄の刃の如き無機質で冷たい眼差しを向け、一言口にする。