第九話「魔精霊は顎」
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い。得体の知れないものへの本能的な恐怖がクレアを縛っていた。
――と、そのとき、クレアの火の鞭が忽然と姿を消した。
スカーレットがクレアの意志に逆らい自発的に精霊魔装を解いたのだ。
火猫の姿となったスカーレットをクレアが絶望的な目で見る。
「スカーレット!? どうして……」
ついに自分の契約精霊にまで見放されてしまったか。かすれた声で契約精霊の名を呟くクレアを一瞥し、スカーレットは低い唸り声を上げて、地を蹴って跳び上がった。
「……っ、だめっ――スカーレット!」
その瞬間、クレアはようやく悟った。しかし、スカーレットは主の声を振り切り、真っ直ぐ魔精霊の元へ駆け、襲い掛かった。
鋼鉄さえも溶かす灼熱の炎。しかし、魔精霊には通用しなかった。
凶悪な顎が開口し、火猫の胴体を容赦なく噛み砕く。
「……あ……スカーレッ……ト」
噛み砕かれたスカーレットは断末魔の悲鳴を上げ、渦を巻くように虚空に消えた。
クレアはその場にへたりこんだ。
理性では逃げろと訴えているが足が小刻みに震えて言うことを聞かない。
あたしのせいで、スカーレットが……。
焔の消えた虚ろな双眸に涙が溢れた。
……あたし、馬鹿だ。リシャルトが止めてくれたのに。勝てもしないのに、一人で突っ込んで。
そして、無様に敗北した。
「……なによ、自業自得じゃないの……」
その上、家族のように大切にしていた契約精霊までも失った。救い様のない馬鹿――。
魔精霊がガチガチと歯を鳴らしながらゆっくりと近づいてくる。スカーレットを食いちぎったばかりの、その禍々しい牙で。
「いや……だ……」
涙が頬を伝い、地面に落ちていく。喉の奥からひきつった声が洩れた。
「助けて……助けて、姉様!」
絶望に目を閉じた、その時。
「クレアっ」
アイツの声が聞こえた。
† † †
今にもクレアを食い殺そうとしている魔精霊を見て、一気にスピードを上げた。
夕凪流活殺術奥義――跳躍瞬動!
瞬動のその先、空間を飛び越える歩術を用いて一息でクレアとの間に割って入った。
地面を蹴って、魔精霊よりも高く飛び上がる。長剣の柄から離した片手で拳を握り締め、天高く振り上げた。
「夕凪流活殺術枝技――真地・鉄槌打ち」
神威で筋力を強化して拳を降り下ろす。
轟音を響かせて魔精霊を
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