第九話「魔精霊は顎」
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クレアは舞い散る火の粉のように空を舞っていた。その右手には炎の鞭が握られ、燃え盛る紅蓮の斬線が闇夜に一筋の軌跡を残す。
クレアは危な気なく地面に着地すると、木々の隙間を縫うようにして魔精霊に接近した。
だめだ、これではいずれ負ける。
俺の見る限り、クレア・ルージュという少女は少なくとも、こと戦闘においては冷静な判断と戦術眼を兼ね揃えている。
しかし、今の彼女は姉であるルビア・エルステインへの想いが先走り、冷静な判断が降せていない。これでは先が見えたも同然だ。
「しぶといわねっ、いい加減、あたしのものになりなさい!」
炎の鞭が夜の闇を舞い、紅いツインテールが闇夜を踊る。
その光景に、思わず目が釘付けになった。
――綺麗だ……。
これが、彼女の――クレア・ルージュの剣舞か。なんと流麗にして優美。夜の闇を炎の軌跡が走り、華麗に舞うその姿に俺は言葉を失った。暴走するエストに一人で立ち向かった時の姿を彷彿させた。
「まったく……本当に困ったものだ」
無謀と勇猛は違うというに。
「エリス、リンスレット。あとは任せた」
「行くのか?」
「ああ、どうやら俺は自分でも思っていた以上にあいつを気に入っているらしい。あのはねっ返りのお嬢さんを助けてやらないとな」
「気を付けてくださいましね」
後ろ手に手を振り、駆け出した。
紅蓮の炎が魔精霊と剣舞を踊っている。
あの焔は消してはいけない。あいつを死なせてはいけない。
なぜなら俺は――、
「あいつのパートナーなのだから!」
オォォオオオン――!
魔精霊の咆哮がクレアを襲い、地面に叩きつけた。
「――クレア!」
† † †
「……あ……ああ、あ……」
地面に叩きつけられたクレアはヒッと身を竦ませた。
目の前には異形な精霊がガチガチと歯を鳴らして迫っている。
それは、まるでクレアを嗤っているかのように見えた。
逃げようとするが、足に力が入らない。
今更ながら恐怖がドッと押し寄せてきた。戦っている間は感覚が麻痺していた、でも今は――、
「あ、あんたなんか、怖くなんかないんだから……っ、あ、あたしの下僕になりなさいよね!」
その罵声に反応したのか、精霊が哄笑の声を上げる。
クレアは身を震わせ、思わず目を閉じた。身体の底から震えが生じ、歯の音が噛み合わな
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