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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十四話 千客万来・桜契社(上)
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いは起きない、千早ならば尚更だ。
君も昔から分かっているだろう、中佐?」
微苦笑を浮かべた保胤中将が口を挟む。

「――はい、申し訳ありません、出過ぎた真似を致しました。」
陪臣の顔で謝罪する馬堂中佐に、
いいよ、と軽く手を振る姿は衆民が漠然と抱いている将家の理想を絵にしている様だった。



小半刻程、雑談を交わし空気がほぐれると保胤中将が顔を引き締め、
私に本題を訊ねた。
「――それで笹嶋君、統帥部戦務参謀として聞きたいのだが
水軍は現況をどう見ている?」

さて、ただの会食の筈はない、これからが本番か。
「内地侵攻の阻止は不可能です。
如何せん現有の戦力では数が足りません。
統帥部と皇海艦隊司令部ではそう結論しております。」
東海洋艦隊司令部の浅木司令長官達は総反攻推進派だった、今では流石に大人しくなっているが――

「まとまりそうかね?」
駒州公が茫洋とした表情のまま私に尋ねる。
「努力は払われています。」
楽観は難しい、統帥部の中にだって守原派は居るのだ。

「まさかとは思いますが、艦隊決戦なんて考えているのですか?」
馬堂水軍名誉中佐が面白そうに口を挟んだ。
「計画自体は持ち上がっている、見てみるかね?」
「結構です、それで華々しい戦果を上げても次に続かないでしょうしね。」
肩をすくめ、首を振る。
 ――素人考えですが。 と断りをいれて馬堂中佐は口を開いた。
「四十隻で〈帝国〉辺境艦隊の相手は厳しいでしょう。
上手く撃退出来たとしても、消耗した後に再度揚陸を試みられたら後方攪乱すら不十分になる可能性が高いでしょう。
私ならば当面は見せ札に徹しますね、水軍は|我々(ほうへい)以上に金を食いますからね。
相手を引きずりだすだけでも十分に敵の懐に穴を空ける事が出来ます。」
 ――さすが馬堂家と言うべきか、金勘定に目を着けるか。

「私も同意見だ。四十隻の集中投入を防ぐ為には最低でも三倍――百二十隻は必要になる。」
「一度に百二十隻も、ですか?確か――辺境軍が所有する艦隊の総数とほぼ同数ですね。
敵の水軍総てを複数の補給線・港湾の防衛に充てる事を強要する、総計はどの程度になりますか?」
そう笹嶋に訊ねる馬堂中佐の顔つきは参謀のものだった。
「現状では最低でも二百四十隻以上、内地侵攻の際には六百隻の大台に乗る。
まぁ、理論上の話であって向こうがそれだけ用意するには一年近くかかるだろう。」
興味深げに笹嶋の話を聞いている保胤中将に視線を向ける。

「――それまでは此方も通商破壊と艦隊の拡充に全力を注ぐしかないですな。当面は陸の方に苦労してもらわなければなりません。」
「その後は何としても生き残る、〈帝国〉の国庫が底を覗くまでは。
それしか勝ちの目はない、か。
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