第百十八話 瓦その五
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「虎は蝮も食う、その蝮の酒を飲むのじゃ」
「蝮は精がつくというが」
「うむ、怪我も精があればすぐに治る」
こう考えてのことなのだ。
「ではよいな」
「何から何まで悪いのう」
「気にすることはない、困った時はお互い様じゃ」
福島は福島で薬を出してきていた。
「早く治せよ」
「済まぬな」
大谷は石田を嫌う面々からも心からの心配を受けた、彼等も決して心悪しき者達ではないのだ、そしてである。
信長は茶会を開いた、そこには主立った家臣達が揃っているが加藤達に石田、そしてまだ怪我が癒えていない大谷もいた。
平手はその大谷の包帯に巻かれた顔を見て言った。
「桂松、御主大丈夫か」
「はい、ご安心下さい」
「ならよいが無理はするでないぞ」
こう大谷に言ったのである。
「まずは怪我を早く治せ」
「有り難きお言葉」
「さて、ではじゃ」
今度は信長、茶会を催す彼が言った。
「この度の茶はただ飲むのではない」
「といいますとここは」
「どうされるのでしょうか」
「わしが茶を入れそれを廻し飲みせよ」
そうしろというのだ。
「よいな、そうせよ」
「我等全員で、ですか」
「そうせよというのですか」
「そうじゃ、そうせよ」
こう言ったのである、そしてだ。
信長は茶を淹れそれを一口飲んでからまずは平手に廻した、平手も一口飲みそしてである。
彼は柴田に廻し柴田も飲んでから佐久間に送る。その様にして織田家の家臣達は同じ茶を飲んでいた。
やがて大谷の番になった、だがここで。
大谷の顔の怪我はまだ癒えてはいない、その怪我から血が滴っていてとりわけ鼻からの血がだった。
それが滴り落ちてしまった、茶の緑の中に赤いものが落ちてしまった。
皆これには思わず口をつぐんでしまった、大谷も動きを止めた様に見えた。
茶を廻すが皆鼻血の入った茶を飲もうとしない、誰もが碗に口をつけるだけでそこから飲もうとはしなかった。彼を気遣った加藤達ですらだ。
だが石田の番になるとだった。
彼はその茶をぐい、と飲み干した。それも一気に。
これには誰もが、信長以外の誰もが驚いた、当の大谷も目を大きく見開き普段の冷静さを失くした顔で言った。
「御主、よいのか」
「何がじゃ?」
「その茶にはわしの」
鼻血が入っている、石田にそうだと言うのだ。
「それを一気にか」
「喉が渇いたからじゃ」
石田はその大谷に平然として答える。
「それでじゃ」
「そう言うのか」
「それでどうしたのじゃ、何かあるか」
「いや、ない」
大谷は石田の考えがわかった、それでだった。
言葉を止めた、加藤達も唖然としたままだった。
誰もが石田の人となりを見た、それから彼が下の者への心配りを忘れず礼節を守りしかも腹が奇麗なこ
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