第百十八話 瓦その三
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「ですから」
「御主が身体を張ってか」
「そのうえで」
「死にはしませぬ」
戦とは違い、だというのだ。
「ならば思う存分身体を張りましょうぞ」
「そう言うからじゃ」
信長も言う。
「わしもそれを許したのじゃ」
「こ奴の言葉を受けてですか」
「そうして」
「最初はならぬと告げたがこ奴がどうしてもと言うからじゃ」
それで受け入れたというのだ。
「そうしたのじゃ」
「ではそうして、ですか」
「こ奴の仕掛けを入れますか」
「御主等、他言は無用じゃぞ」
今度は池田と森へ念を押した。
「決してな」
「わかっております、このことは」
「例え何があろうとも」
「御主達は口が堅い」
実際にそうだ、この二人の忠誠心は平手と比べても劣るものではない、そして信長も二人を信頼している。
だがそれでもこのことは決してと思い言ったのである。
「だがこの度は戦よりも厄介じゃからな」
「家のひびを消す」
「その為ですな」
「大きな堤も蟻の一穴で崩れる」
家もまた然りだというのだ。
「そうなるからのう」
「ではその様に」
「我等も決して喋りませぬ」
「爺だと佐吉達をぶん殴ってしまう」
頑固で怒りやすい彼ならそうしてしまうというのだ。
「それもどうかと思うてのう」
「確かに。平手殿ですと」
池田が笑って平手がどうかと返した。
「そうなりますな」
「そうじゃろう、爺は怒ることからはじめるからな」
「虎之助達はあれで素直で殴られますが」
「佐吉もそうだろうがな」
「しかしそこから延々と小言ですな」
「小言はこの度はせぬ」
それでも事態は解決するがそれはこの場合は最良のやり方ではないと考えてそのうえで採らないことにしたのだ。
「だからこ奴の言うことを受けたのじゃ」
「ですか、そうして」
「そのうえでなのですな」
「その通りじゃ、全く爺はのう」
今度は平手についてだった。信長は袖の下で腕を組みやれやれといった顔でこうも述べた。
「幾つになっても変わらぬわ」
「それがしが織田家に入った頃よりああでしたからな」
森も少し苦笑いになって言う。
「平手殿は」
「よく怒るし小言も煩い」
「それでものをよく知っておられますし」
「政は何でも出来るからのう」
文に秀でているのだ。その為なのだ。
「留守役も任せられておる。ただ」
「ただ?」
「ただといいますと」
「さて、後何年生きてくれるかのう」
今度は冗談での言葉だった。
「爺は」
「二十年は生きるでしょうな」
池田が笑ってこう信長に述べた。
「あの方は」
「二十年か」
「はい、それ程度は」
「だとすると爺は相当な歳になるが」
今でも織田家の最長老だ、だがそれがさらにだというのだ。
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