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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第58話 水の契約者
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なかったのなら、見過ごしたとしても仕方がないとは思います。しかし、最初から事件に関わり、更に、事件が起きつつ有る事を知って仕舞った以上、流石に、多少の対処法を考えて置く必要も有るでしょう。

 湖の乙女が、俺を真っ直ぐに見つめた。これは……。

「わたしは、現在、この世界のすべての水を支配している訳ではない」

 湖の乙女が、彼女に相応しい声で、そう話し掛けて来る。そして現在、彼女の発して居る雰囲気は否定的な物ではない。……と言う事は、

「俺を手伝ってくれると言うのか?」

 自らの仲間に対して人が与えた仕打ちを許したと言う事か、それとも、別の理由からなのか。
 その辺りについては未だ良く判らないけど……。

 彼女は少し間を置いた後、小さく首肯く。そして、

「わたしと契約を交わしてくれるのならば」

 ……と、想定内の言葉を続けた。

 この世界の魔法使いたちは精霊と契約を結ぶ事は有りません。
 そして、精霊と言う存在も一種の神霊で有る以上、信仰を集める必要が有り、元々は強力な能力を持って居た神霊で有ったとしても、自らと契約を結ぶ者から信仰心(霊力)を集められなければ、零落して本来の能力を発揮する事が出来なく成ります。

 故に、ブリギッドも俺と契約を交わそうとしたのでしょうから。
 まして、湖の精霊と古の契約を交わしたはずのトリステインの王家が、その契約の義務を履行する事がないのですから、彼女らが人間から得られる霊力は存在しないのでしょう。

 それにしても……。

 俺は、月の明かりに照らし出された儚い少女を瞳の中心に置きながら、

 この世界の精霊と、それに、それぞれの精霊と契約を結んだはずの王家との破たんした関係に思いを馳せていた。
 もっとも、これは単に現実逃避。

 メガネ越しの冬の属性を持つ瞳の中心に俺を映し、凛然とした気品と、彼女の取っている年齢に相応しい、彼女独特のペシミズムとも言うべき雰囲気を纏った少女の姿を模した神霊。

 彼女……湖の乙女が、次の行動に移らない俺を、彼女に相応しい硬質な雰囲気を纏い見つめるだけで有った。

「俺の、受肉した存在との契約方法は知って居るな?」

 覚悟を決めた俺が、湖の乙女に対してそう問い掛ける。元々、この展開を予想していたが故に、タバサをこの場に連れて来なかったのです。いや、彼女の方が着いて来なかったと言うべきですか。
 ……ならば、ここで逃げても意味はない。

 俺の問いに微かに首肯く湖の乙女。やや上目使いに俺を見上げる彼女の顔を構成する重要なパーツの銀と硝子を、そっと外してやる。
 まるで造られた存在で有るかのような精緻な容貌。確かに、この両手を回せば、簡単に抱きしめられる距離から、俺を上目使いに見上げる少女
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