第5章 契約
第58話 水の契約者
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かなりむしの良い申し出だっただけに、断られても仕方がない、と諦めつつ有った俺に対して、湖の乙女と名乗った少女が次の台詞を口にする。
「わたしだけでは、進み続ける事態を止める力はない」
今宵、この場に顕われてから彼女が初めて口にする言葉は、俺に取って、多少の希望を持っても良い内容のように感じられる言葉では有りました。
但し、更に続けて、
「天命の尽きた王家が国を支配する以上、世が乱れ、天変地異が起きるのは天の理」
……と、俺に対して、湖の乙女はそう告げて来た。今までと同じ、彼女独特の抑揚に欠ける口調で。
天命が尽きる……。これは西洋の考え方ではない。これは、おそらくは易姓革命の事。
東洋での王朝と言うのは、天帝が王を自らの長子として認め、その王に天命を下して地上世界の統治を委ねる。大体がこの程度の理屈で王や帝と成ってその国を統治するのですが、その内に、その天命を受けた者の家系の者で有ったとしても、徳を失う時がやって来ます。
その際に天帝は、その家系の者……つまり王家の末裔を長子として認めなくなり、代わりの徳を持つ者を探し出して来て、その人物に新しく天命を下すのです。
そう、命が革まる。これが、革命と言う言葉の元。
有名な言葉で表現すると、『蒼天既に死す。黄天まさに立つべし』と言う言葉ですか。
もっとも、この言葉自体は、五行の思想からは少し遠い言葉なのですが。
蒼天=木行。黄天=土行。木行から土行への移行は有りません。土を生むのなら、天は朱天、つまり、火行の王朝でなければならないのですから。
そして、現在のハルケギニア世界の状況は、太歳星君の封じられた地をガリア王家が荒らしたり、水の邪神共工がすべての土地を水で覆うとしたり、逆に天帝の妹の魃姫が顕われて日照りが続いたり。
確かに、ひとつの王朝が滅びて、新しい王家が興る前兆の可能性は有ります。
まして、新たな王家を興す資格を持つタバサは、東の瑞獣にして鱗を持つモノ達の王を召喚して見せましたから。
しかし……。
「天帝だろうが、大いなる意志だろうが、そんな訳の判らない連中が何を考えているかなんて俺には関係ない。問題は、このままでは凶作から飢饉が発生する可能性が有る事だけ」
言葉の内容ほど、厳しい、糾弾するかのような口調ではなく、かなり穏やかな口調で、紫の少女に対して俺の答えを告げる。
まして、現在の日照りが続いている状況が何らかの天命ならば、ここで湖の乙女に助力を求めたとしても、彼女の言うように、凶作から飢饉へと続く流れをせき止める事はかなり難しい事となります。
つまり、ない知恵を絞り、必死になって凶作や飢饉へと続く流れをへし折ろうとしても、最終的には|
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