第5章 契約
第58話 水の契約者
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旱魃を起こす祟り神で有る事を報せていませんので。
何故ならば、彼が拾って来た少女のその正体が、人に害を与える可能性も有る存在だと報せると、コルベール先生自身が傷付く可能性も有ると思いましたから。
もっとも、魃姫がこの地上に降りて来たのは偶然などでは無く、運命だと思いますから、コルベール先生に一切の罪は有りません。まして、先ほどまでここに居た少女の方にも罪は有りませんから。
【後に起きる事態に備えるのは、俺とタバサの役割やな】
コルベール先生に取ってはこれで終わった話ですが、水の邪神共工との戦いを行った俺とタバサに取っては、未だ始まったばかりの話。
まして、共工、魃姫と続けば、次にやって来るのは、
そして、この俺の【念話】に対して、タバサは強く首肯いて答えてくれたのでした。
☆★☆★☆
盛夏の夜を支配する二人の女神が、彼女らに相応しい、澄んだ光輝を地上に届け、
湖を渡る風が周囲の草をざわざわと揺らし、少し伸びかけて来た俺のやや収まりの悪い前髪を弄った。
魃姫が去った次の夜。七月最後の週のエオーの曜日の夜。
澄んだ湖の表面に、漣が立った。俺が訪れた事に気付いた彼女が顕われる前兆。
その漣が立つかのようで有った湖面が淡い光輝を発し、その光りの形作る輪が、徐々に俺の方へと近付いて来る。
そして活性化し、光りの輪の周囲を舞う小さき精霊たち。そう、その妖精たちの舞った足跡が、すなわち妖精の環。フェアリー・サークルと言う現象を引き起こす。
ゆっくりと、しかし、確実に俺の前に姿を顕わした湖の乙女。いや、これは、彼女の自称で有り、本当の名前で有る保障は何処にも有りませんでしたか。
少女はその冷たいと表現すべき眸に俺を映し、ただ、ふたつの月明かりの下にそっと佇むだけであった。
真夏の夜に取っては心地良い、熱せられた大地と心を癒す湖面を渡り来る風が、俺と彼女の間をすり抜け……。
そして俺は、その風に秘かにため息を乗せた。彼女に気付かれないようにそっと……。
「俺がここに一人で来た理由は判っているかな」
俺の問い掛けに対して、小さく首肯く湖の乙女。これは、肯定。
そして、ここまでは想定内。但し、ここから先の俺の話を聞いた後の、彼女の答えは想像が付かない。
「水の邪神共工が顕われ、それを俺達が倒した事により、この世の理に不都合が生じた可能性が有る」
俺は、彼女がそうするように、湖の乙女を真っ直ぐにその紅と黒の瞳に映しながら、そう話し始める。
名工の手に因って生み出されたと思しきその精緻な容貌を俺に魅せ、ただ、黙々と俺の声を聴く湖の乙女。その姿に、少し気圧され、そして、人間の勝手な思惑に彼女を
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