第5章 契約
第58話 水の契約者
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魃姫の領巾が風にたなびき、天女はしなやかな雰囲気で宙に浮かび上がる。
そう。まるで、重さを持たない存在の如く……。
次の瞬間、天女がコルベール先生の頬に両手を当て、その美しくも、やけに儚げな雰囲気を漂わせる容貌を近付けて行き……。
女神の祝福が為された。
不意を突かれたコルベール先生が呆然として居る内に、そのまま少し浮き上がり、俺に視線を向けた後、
……ゆっくりと天女が首肯いた。これは、彼女の帰る準備は整ったと言う合図。
その合図を最後まで確認した後、愛用の笛を取り出し、送還の曲と同時に、魃姫の魂を慰める鎮魂の笛を吹き始める俺。
ゆっくりとした、心に染み入る穏やかな曲調から始まる鎮魂の笛の音。
そして、その低い曲調から始まる鎮魂の曲に、タバサの落ち着いた歌声……鎮魂の歌が重なる。
そう。タバサの澄んだ歌声に、俺の魂を乗せた笛の音のなめらかで、独特の哀調と言うべきメロディが重なり……。
音程ひとつ。いや、テンポが半瞬ずれるだけで、魔法を行使すると言う行為は破綻し、すべての行為は水泡へと帰す。
真夏の容赦ない日差しが照りつける中、ゆっくりと広がって行く旋律と、其処に重ねられる蒼き吸血姫の呪文詠唱が、空間に満ちる精気を束ね、無秩序だった雑多な気が二人分の霊力に因ってひとつの方向性を得て……。
俺とタバサの歌声が、苛にして烈なる真夏に支配された世界を塗り替えた刹那、魃姫から色濃く、熱く立ち昇り始める神気。
それは、彼女の属性に相応しい白い光輝を放ちながら、遙か天に向かって伸びる柱を形作る。もしも、その柱を神の視点から見下ろせば、この国には有り得ない文字と、奇妙な文様を含む送還用の魔法陣を見つける事が出来たで有ろう。
魃姫から立ち昇る気に向かって吹き込む風が、俺の頬を弄り、タバサの前髪を揺らす。
その立ち昇る気に従ってゆっくりと上昇して行く魃姫。その姿は、羽衣を取り返した天女だろうか。それとも、地に遣わされた天の御使いの帰還で有っただろうか。
そして、その姿はみるみる内に小さくなって行き……。
「彼女は、還って行ったと言う事なのですか、シノブくん」
自らの研究室から、ギラギラとした真夏の太陽光の支配する場所に歩み出て来たコルベール先生が、遙かな上空に消えた女性の姿を目で探すようにしながら、そう尋ねて来る。
「彼女は、一時的に舞い降りて来た天女。時が来れば……。自らの霊力を取り戻せば、自らの国に還る定めを持つのは必定です」
コルベール先生の問いに対しては、そう答えて置く俺。異世界からの侵食の強いこの事態に、これ以上、先生を巻き込む必要は感じませんから。まして、彼には先ほどまでここに居た少女の正体が、
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