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Report3-1 アキレウス/シャドー
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ういうことかしら。クルスニクの血を最も濃く継いだ血統者たちが審判のクライマックスに生まれて舞台に上がるなんて)
ユリウスは白猫を抱き上げると、ユティに差し出した。ユティはおそるおそる受け取る。
白猫は大人しくユティの腕に納まった。生温かい。緊張する。ワイバーン以外で本物の動物に触るのは初めてだった。
「飼い主がどこにいるかは分かってるのか」
首を横に振る。白猫の飼い主がマルクスという老人で、ドヴォールで慈善事業をしているのはレイアから聞いたが、所在地までは知らない。猫を見つけた後でレイアに聞けばどうせ分かる、と考えて聞かずにおいた。
「そうか。今もこの街に住んでいるなら、住所は――」
ユリウスが述べる番地を耳で覚える。
「ん、分かった。届ける」
「……メモもしないで覚えたのか?」
「覚えた。××××-×××-×××××」
「俺が間違ってたよ」
「他には?」
「何が」
「この猫の飼い主に伝えること、もっとあるんじゃないの。アナタには」
す、と蒼眸が細くなり、ユティを射抜いた。何を知っている、どこで知った、と無言で詰問する目。
「住所知ってるくらいだから、深い知り合いだと思った」
「それだけか」
「この子の名前が『ユリウス』で、アナタそっくり」
やがてユリウスは長い溜息を落とした。
「実家にいた頃の執事頭だったんだ。その時から彼は『ユリウス』を飼っていたからな。こいつもそうだろうと踏んだ。……あの時期、俺の気持ちを察してくれたのは爺やだけだった」
「この子は3世」
「やっぱりまだ続いてたか。爺やもしょうがないな。じゃあ一つ伝言を頼む。『心配をかけてすまない。あなたの孫は元気でやってる』。それで通じるはずだ」
「分かった。確かに伝える」
反射で即答し、はた、とユリウスの発言の中に聞き捨てならないフレーズを拾い上げた。
「……孫? 執事さんじゃないの?」
「色々複雑なんだよ」
「教えては、くれないの?」
父は祖母周辺については詳しく語らなかった。ユースティアには要らない情報だから与えられていないのだ。祖母についてユティが知るのは、「クルスニクの鍵」だった女性で、クロノスとの戦いで死んだという情報だけ。
「……そういう顔をしないでくれ。対応に困る」
「どんな顔もしてない」
「鏡を見てみろ。あからさまに不満だと書いてあるぞ」
メガネを外して袖で顔を乱暴に拭く。ちなみに分かってやっている。詐術の師でもあった男が教えてくれた。相手の油断を誘うリアクションその17。
「してない」
「恐れ入ったよ……」
結局、ユリウスとマルクス老人の関係を詳しく聞き出すことはできなかった。
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