参ノ巻
守るべきもの
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「今日は」
「これは。前田の瑠螺蔚姫。どうぞ」
甲冑姿に槍を持った門衛はそう言うと快く門を通してくれた。
あたしも顔が売れたものねぇ。柴田家が鷹男に毒を盛ろうとしてたのを止めに天地城に乗り込んだ時、「何者ォォォォオオオ!」とか叫びながら鬼のような形相で追いかけられてた頃が懐かしいわ。
あたしはしみじみと頷いた。
とりあえずね、あたしは昨日一晩考えた訳よ。昨日の男がどこの誰かは全く見覚えないし、というか暗闇で顔なんて見えなかったけどさ。奴の目的は、もう間違いなくこのあたし。そして多分というか確実に、ひいては前田家。
あたしはこれでも、もとを辿ればかの藤原家、千年以上は続くと言われる由緒正しき前田家の唯一の姫。野心のある男なら、そりゃあ喉から手が出るほど欲しいでしょうよ。
でも少しでも頭が働くのなら、おいそれとあたしに手出しはできない筈なのだ。なぜなら、ここら一帯を納める主君の織田君自ら、あたしと親しいところを柴田家の事件で公言しているし、前田家と負けず劣らぬ勢力を持つ佐々家にあたしが転がり込んでいる、そんな状況で手を出せば、前田家だけでなく佐々家の面子を潰すことになる。織田家、佐々家、前田家、この三家を敵に回しても息をしていけるところなんて、近場で思い浮かばない。実際もう高彬は動いているわけだし。
そうなると、自然、余程直情型で後先考えない人間の仕業なのかな…と思ってしまうのもしょうがない。
てことは、あたしに乱暴狼藉を働いた太い輩は多分、身分はそんなに高くない筈。守る家があれば、こんな失うものの多すぎる賭みたいなことは普通しない。
それに、あたし、多分…昨日の声、どこかで、聞いたことがある…気が、する。
どこで耳にしたかは思い出せないんだけれど、言葉少なだった男の声を、もう一度聞いたらわかるんじゃないかと、あたしはこうして天地城に出向いているのだった。
あとは、なんか前田家を取り巻くきな臭い噂話でも聞けたら儲けもの、って感じかな。
あたしはぶらぶらと濡れ縁を歩く。
あたし天地城に全く詳しくないから、行っちゃいけないところとか全然わかんないんだけど…いっか?
なんかあんまり人いないなー会議でもしてんのかなぁ。
半開きになった障子の横を、だらしがないなぁと思いながら通った、その時だった。
あたしは思わず立ち止まって、部屋の中を覗き込んだ。
あれって…鷹男?
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