参ノ巻
守るべきもの
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ゃ、ないけど…」
あたしはしどろもどろに言いながら、赤い顔を背けた。
「ひゃ!なに…」
背けた頬を、鷹男の指が辿った。髪が切られた方の頬だ。
「私の前で、あなたはいつも傷ついている」
「傷は女の勲章って言うじゃない」
「それは男だけです」
「あ、そうですか…」
なんだか鷹男が真剣な顔をして、あたしは場を和ませようとわざと明るく言ったけど、至って真面目に返されてしゅんとした。
鷹男は無言であたしの顔をじっと見る。田中と対峙していた時とは別の汗がじわりと滲む。
あーなんかやだこの雰囲気。慣れない!
「あ…っそろそろ、戻ろっかなーなんて!鷹男も無事だったことだし!」
あたしは目を泳がせながら言った。
「あ、と。そうだ、この脇差返すね。刀は男の魂でしょ。大事にしなさいよ」
「姫に差し上げます」
「え」
「姫に」
「も、貰えないわよ!そんなの…」
「では、せめてその御髪が伸びるまで、預かっていて下さい」
「…あんたが責任を感じることじゃあ、ないのよ。あたしが勝手にしたことなんだし…」
鷹男は優しいけれど抵抗できない強引さであたしに刀を押しつけた。あたしはしぶしぶ受け取る。
「そういえば、姫はなぜ天地城に?こちらに何か御用でも?」
「あ!」
すっかり本来の目的忘れてた。
「あたし行くね。誰か人呼んできてあげるから、大人しくしてるのよ。あ、でもまた変なのがきたら危ないから、やっぱりこの刀…」
「もう一振りあるので大丈夫ですよ」
「そう?じゃあ有り難く」
あたしは忙しなくそう言うと、障子に手をかけた。
開きかけた障子を止めて、あたしはゆっくりと振り返る。
「…鷹男」
「はい」
鷹男はもとのように脇息に凭れ、優しく微笑んでいた。
「あんた…」
自分に向けられる人間の強い感情というものは、酷く心に残る。それが悪いものなら、尚更だ。
きっとそれは、心を食まれるほどに苦しい。
聞いてもどうしようもないこと。もしかしたらそれは、鷹男に直接聞くべきではないかもしれないこと。でも言葉は口から零れた。
「あんた、いつもこんな…」
結局あたしは言葉尻がつまり、最後まで言えなかっ
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