参ノ巻
守るべきもの
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脇息に凭れかかって瞳を閉じているのは麗しき織田の若君、その人だった。
あたしはそうっと障子の隙間から中に滑り込んでそろそろと歩くと、鷹男の傍にしゃがみこんだ。
…寝てる。
さらさらとした黒髪が精悍な頬にかかり、その男らしさを際立たせている。
憎たらしいぐらいに男前だ。もう、なんなの。これだけ格好良ければ人生楽しいでしょうね。
あたしは唇をとがらせると、えいと鷹男の鼻をつまんでやった。
女泣かせの若君様め。
それにしても、鷹男が一人で寝てるって…なに?傍に伴の者の一人もいやしないなんて…仮にもこの人、織田の次期当主よ?ちょっと警備緩すぎなんじゃないの?
それにこの部屋大分寒いのに火鉢も何にもなし。鷹男も鷹男で、なーんにも羽織っていない。寒いでしょ、どう考えても。あたしは自分の羽織を一枚鷹男に掛けてあげた。
その時、ふと気配を感じてあたしは顔を上げた。
入り口に、声もなく男が立っていた。
あたしは驚き、無意識に体を鷹男に寄せた。
な、なに?
「あ、あの…?」
あたしがおそるおそる声をかけると、男はにへらと、とってつけたような笑いを浮かべた。
「いやあ、若君をお待たせしてはいかんと、頼まれたものを持ってきたところでして。どちらの姫であらせられるかな?某は若君の伴をしております田中というもの。怪しい者では御座りません」
聞かれもしないことをぺらぺらと勝手に捲し立ててる男が、一歩部屋に踏みいる。
月代から額にかけて、この寒いのに汗が滲んでいる。
「頭が高いのではなくて?若殿の御前よ」
あたしは咄嗟に眉をひそめて鷹揚に言い放った。明らかに機嫌の悪くなった田中はそれでも膝を折る。あたしはみえないところで即座に鷹男の腿を結構強くつねったけれど、鷹男は無反応だ。
起きもしない。痛がりもしない。これは、普通じゃない。
「おまえ、わたくしが誰かわからないの?」
あたしは苛ついたように溜息を吐いた。
「は…」
「誰が顔を見せて良いと言った!」
田中が頭をあげようとするのを怒鳴りつけて、あたしは不機嫌にそっぽを向いた、ふりをした。
多分、鷹男は薬か何かを使われている。あたしはもしかしたら、不味いところに居合わせてしまったのかもしれない。
鷹男が呼吸をしているか…あ
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