第一幕その八
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第一幕その八
「セギディーりゃを踊ってマンザリーヤを飲みに行くのよ。馴染みのその店に」
「そうなのか」
ホセはそれを聞いて無意識のうちにカルメンにほんの少し近付いていた。
「一人じゃ詰まらない。二人で一緒に行くのよ」
「誰とだ?」
「あたしの大事な恋人と。今度出来た恋人に」
ホセに応えるようにして言う。
「空気みたいに自由なあたしの心は言い寄る男をダースで数えて気に入らないと諦める。けれど日曜も近いから好いてくれる人がいたら好いてくれるわ」
「馬鹿馬鹿しい」
そうは言ってもやはり無意識のうちにカルメンに近付いていた。さっきよりさらに。
「あたしの心が欲しいのは誰かしら。何時でもどうぞ。いい時にいらしたとあのお店に案内してげるわよ」
「リーリャス=パスティアにか」
「ええ」
ホセはついついカルメンに尋ねてしまっていた。
「そうよ。新しい恋人と一緒にね」
「そうか」
「将校さんとね」
「じゃあ俺ではないな」
ここではホセはしらばっくれた。
「それじゃあ」
「あたしの将校さんはちょっと違うのよ」
「どう違うんだ?」
「伍長さんなのよ」
「うっ」
カルメンの言葉を笑みを浮かべた視線に言葉を詰まらせた。
「ジプシー女はそれで結構。満足よ」
「カルメン」
ホセは暗い目になっていた。その目でおずおずとカルメンに問うのだった。
「リーリャス=パスティアだな」
「ええ、そうよ」
「わかった」
これで終わりだった。ホセは陥落した。
「それじゃあ」
カルメンの後ろに回って縄を解く。それが済んだ時にスニーガが戻って来たのであった。ホセはカルメンから離れた。カルメンもカルメンで両手を後ろに隠す。これで終わりであった。
「ホセ伍長」
「はい」
敬礼と返礼の後でスニーガはホセに声をかけてきた。
「命令書を持って来た。今から連れて行け」
「わかりました」
「すぐにだ、いいな」
「はい、それでは」
カルメンの側に向かう。するとカルメンが側で囁いてきたのだった。
「それじゃああの店でね」
「ああ」
二人は歩きはじめる。そうして。
「恋はジプシーの生まれ」
またあの言葉を歌うように口ずさむ。
「掟なんか知ったことじゃない。好いてくれなくてもあたしから好いてやる」
「その続きは監獄でな」
「けれど」
スニーガが言ったところでカルメンの目が光りそうして。
「あたしが好いたら危ないよ」
そう言って動いた。ホセを突き飛ばし逃げ出したのだった。
「あっ、しまった!」
「追え!」
兵士達とスニーガが叫んだ時には遅かった。カルメンはもう人ごみの中に消えていた。後には彼女の高笑いだけがあった。
「カルメン」
ホセは倒れながらもカルメンの笑い声がする方を見て
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