第三話〜過去〜
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
かったのだ。
江は幼少時の記憶があやふやだった。
それは物心がつく以前のものではなく、もう自らの言葉の意味が理解できるようになってからのもの。
ずっと蓋をしていたのだ。
漏れ出さないように。思い出さないように。
もうこれ以上傷つかないように。
「…そうか、そうだった…」
突然のことに慌てて江に駆け寄る焔。
しかし江は何やら一人で納得したような言葉を呟いている。
「覚えていなかったんじゃない。…『無理矢理』忘れていたんだ」
先ほど断片的に見えていた光景も、今なら全てが自身の記憶であったことが分かる。
『然、いつか孫呉の大黒柱となりなさい』
『母上』が口癖のように幼い自分に言い聞かせていた言葉。
『あなたの力でみんなを護ってあげなさい』
その時には必ずこの言葉が付いて来た。
『…何が、あっても…生き延びなさい。…然、愛してる、わ』
そして血塗れになった『母上』が最後に言った言葉。
『チッ、何だよコイツ。女みてぇな顔して、男じゃねぇか』
『男のガキでも雑用ぐらいは出来んだろ。憎いあの女の甥だ。精々こきつかってやろうぜ』
下衆の笑みをこちらに向け、そんなこと話し合っている賊たち。
今なら全てを思い出せる。
自分が悲しみに押し潰されないように記憶も感情も抑えこんだことを。
今ならはっきり分かる。
自分は何を為すべきなのかを。
「…そう」
頭痛も吐き気もある程度治まった江は全てを話した。
自分が焔の甥であり、記憶を取り戻したことを。
しかし焔は驚きを見せなかった。
「驚かないのですか?」
「もしかしたらとは思っていたわ。私も桃蓮も祭も。…いいえ、そうであってほしいと思っていた、のほうが適切かしら」
それだけ言い終わると、焔は地面に膝をつき、手をつき、頭を下げた。
「あなたの母が死んだのは私の甘さのせい。許してくれなんて言わない。殺されたって構わない。でも謝らせて。ごめんなさい」
そう言ったきり、焔は顔を上げない。地面に一滴ニ滴と滴が落ちる。
ついた手も、頭も、体もふるふると揺れている。
「…頭を、あげてください」
低い抑揚のない声で、下げられた焔の頭に声が降りかかる。
その声にビクッと体を震わせながらも、江に殺されるならと、焔は涙に濡れた顔を上げる。
江は無言で焔に近づくと
パンッ
その場に乾いた音が響いた。
「………え?」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ