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おいでませ魍魎盒飯店
Episode 1 転生乙女は妖精猫を三度断罪す
骨を愛でるいくつかの方法
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卵? また悪趣味な食材だニャ」
 思わず呟いたポメの声に、マルもさもありなんと頷いた。
 卵とは、爬虫類系か両生類系の魔物が主に好んで食べるものであり、哺乳類型の魔物が口にするものではなかった。
 それに、爬虫類たちにしても卵は殻のまま飲み込んで腹の中で割って食べるものだ。
 卵を割ってから中身だけを取り出すなど、いったい何をするつもりなのだろうか?
 卵の中身など生臭いだけで大して美味しくも無いと思うのだが……

 そんな会話をするケットシーたちを他所に、キシリアは30センチぐらいの長さをした二本の細い串を片手に握り、割りいれた卵の中身をグチャグチャにかき回し始めた。
「う、うぇっ……き、気持ちが悪いニャ」
「こ、このグチャグチャとした音が生理的にダメだニャ!」
「な、なんて気色の悪いことをするニャ! 生臭いニャ!」
 思わずこみ上げた吐き気に、三匹が三匹とも顔が青ざめる。

「食文化が違うのは判ってるんだけど……黙って見ててくれる? いま、すごく大事なところだから」
 そう告げると、キシリアはかき混ぜた卵の中に少量の黒い液体と、冷たくなった蟹殻のスープを注いでさらにかき混ぜた。
 そしてウットリとした表情で土鍋と呼ばれる器をじっと見つめている。

 いったい何が出来るというのだろうか?
 はっきり言って、ゴミを煮込んだ液体と薬草と雑草と見知らぬ液体を混ぜ合わせたわけのわからない代物だ。
 だが……なんだろう、この得体のしれないかぐわかしい香りは?
 先ほどからどうにもヨダレがとまらない。

「よし、そろそろ火を止めるか」
 そう告げると、キシリアは土鍋に注いでいた理力を解き土鍋の蓋を開いて、平べったい木製の(へら)を手にして土鍋の中身をかき回した。
 そしてふたたび土鍋の蓋を閉じると、土鍋を放置して緑の糸のような草を刃物で細かく刻み始めた。
 おそらくまだ若い森髭だろう。
 独特のツンとした辛い香りが鼻をつく。
 昆虫系の魔物の中にはこの臭いを好むものがいるが、基本的に彼等ケットシーにとっては受け入れ難い臭いである。

 だが、なんという事だろう?
 今までこの部屋に漂っていたいくつものクセの強い香りが、この森髭の香りと合わさった途端、まるでパズルの最後のピースが合わさったかのように見事な調和を見せたのだ。
 いや、むしろ香りという形をとった魔法の詠唱がいま終わろうとしているかのようである。

「さぁ、仕上げだ」
 再び土鍋の蓋を開いたキシリアは、かき混ぜた卵の中身をそこに流し入れ、さらに刻んだ森髭をまばらに上から散らすように投げ入れた。
 先ほど唱えられた香りの魔法がついに完成する。
 キシリアの顔が陶然とした微笑を浮かべ、周囲に殺人的に食欲をそそる匂いが溢れた。

 人間
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