Episode 1 転生乙女は妖精猫を三度断罪す
骨を愛でるいくつかの方法
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「う、うにゃぁっ!?」
「な、何をする気だにゃ!」
「ゆ、指一本動かないニャ!」
金縛りにあったことのある人ならば理解できるだろうが、"動かない"ではなくて"動けない"という状況は、非常に不快な感覚である。
ヒゲを震わせて悲鳴を上げる三匹を冷ややかな視線で見据えると、キシリアは笑顔のままでこう答えた。
「何もしないよ? ただ、動けなくしただけ。 今から作る料理の邪魔をされたくなかったから。 君らには今後キッチンの手伝いをしてもらうつもりだから、今日は"見学"ね。 基本的に見る以外のことはさせるつもり無いよ」
そのままクルリと背中を向け、ケットシーたちがいぶかしげな視線を送る中、悠々と料理をしはじめた。
「蟹を食べた後って、臭いし汚いし、一見して蟹の殻なんて生ゴミ街道一直線だよね」
そう言いながら取り出したのは、先ほどまでケットシーたちがむさぼっていた蟹の残骸。
呪詛が抜けて腐敗が始まっているのか、あたりにはムッとくるような異臭が漂っていた。
「でも、あまり知られていない事だけど……蟹の殻ってのはとてもいい出汁が出るんだ。 いままで蟹の殻を捨てていたお前らには信じられないだろう? でも、料理という技術はそれを可能にするんだ。 まさに骨まで愛せる魔法と言うヤツだな」
――実際に見せてやろう。
そう告げると、キシリアは喰い残した蟹の残骸を水の入った盥の中に放り込む。
さらに指のスラリと伸びた形の良い手をそちらに向けると、目を閉じて理力を開放した。
「我が理力よ、我が言葉を真実として受け入れよ。 我が前に見えざる無数のタワシあり。 千の指、万のブラシとなりてこの蟹の殻全てを洗浄せん。 急々如律令、濯!」
その言葉に従い、ガシャガシャと水の中で見えない何かが大量に動く音が響きはじめる。
「「え、詠唱法?」」
ケットシー三匹の声が綺麗に揃った。
通常、理力の行使に呪文は必要ない。
ただ、イメージするものが複雑である場合、今のようにやりたいことを口にするという方法や、イラストを横で見ながら行うことがある。
その中でも、言葉を使ってイメージを固める方法を"詠唱法"と呼ぶのだが……いわば、自転車を乗るために補助輪をつけるものと理解して欲しい。
「ありえねーニャ」
「……だ、ださいニャ」
「子供じゃあるまいし、みっともないニャ」
自分のすることが事前にばれてしまう詠唱法は、その性質からあまり使われることは無い。
当然ながら理力を詠唱なしで使うのが大人の魔族のたしなみであり、いい大人が詠唱を使うなど恥ずかしいことこの上ないお話なのである。
「う。うるさいなぁっ! こちとら、まだこの世界に生まれて1年ちょっとぐらいなんだよっ!!」
顔を赤くしたキシリアが頬を
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