Prologue 食の荒野に生まれ落ちて
私は魔界のお弁当屋さん
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のように押し寄せる。
人間社会と違って他人に譲るルールもなければその必要も無い魔族の社会では、文字通り前の者を押しつぶしながら押し寄せるのだ。
「キシリアちゃん、ゴブリン弁当5つよろしく!!」
「はぁぃ!!」
「こっちは弁当12個!」
「テメェ、買占めする気か!!」
「すいません、お弁当は一人5つまででお願いします!」
「そんなあぁぁぁぁっ!! 12個買って帰らないとウチのお局さんたちに殺されるぅぅっ!?」
「知るか! そんなモン!!」
魔王の城下町の一角で始まった弁当争奪戦は、11時の鐘が鳴り響く少し前……キシリアの営業する店の弁当が全て売切れるまで続いた。
「すいませーん。 お弁当売り切れました! まことに申し訳ありませんが、またのお越しをお待ちしております!!」
弁当を買いそびれた客に向かって申し訳なさそうにそう告げると、いつものことではあるが怒りの声がそこかしこから響き渡る。
だが、弁当が買えなかったために、怒鳴り、泣き叫び、暴動を起こしそうなほど興奮した魔族たちは、キシリアに買収された警備兵の手によって街の外壁の向こうに手際よく押しやられていった。
ほぼ毎日のことなのだが、この空気だけはいつまでたっても慣れそうにない。
暴動や殺し合いなど日常茶飯事である魔族社会の空気が、キシリアはどうにも苦手で仕方が無かった。
それゆえに、わざわざ警備兵を雇って客を捌いているのだが、こんな手間をかけるのは魔界広しといえどもキシリアの店だけだろう。
大概は客が商品を巡って殺し合いを始めても、店の中が壊れない限りはそのままだ。
――閉店時間のゴタゴタが始まってからおよそ1時間後。
荒れ狂った客たちがいなくなると、キシリアはようやく一息ついて椅子に座り込んだ。
このあとこの店は雑貨屋だけになるので、ここから先の時間は彼女にとってほぼ休憩時間だ。
ちなみに雑貨屋の店番もキシリア一人でやっているのだが、こちらのほうはあまり儲かっていない。
そんなキシリアが椅子の上で足を組みなおすと、その長いスカートの間から犬のような尻尾がチラリとはみ出す。
同時にその頭にかぶったヘッドドレスの下から大きな犬の耳がヒョッコリと顔を覗かせた。
彼女はそのまま、頭にかぶったヘッドドレスをむしりとって近くのテーブルの上に放り投げる。
「はー 疲れた。 毎回これじゃ身がもたねぇわ」
さらにその口からは、まるで少年のようなぶっきらぼうな台詞が飛びだした。
もしも魔界の淑女である彼女の同族たちがみたならば、思わず扇で顔を隠して眉間に皺を寄せてしまうほどの無作法である。
すでにお分かりだと思うが、この少女は人間ではない。
"絹纏う者"シルキー。
魔界のメイドにして、女性のみ
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